【週俳8月の俳句を読む】
さいばら天気
犬がわかりません
投稿作品3作より。
蚊ばしらをつたって昇りゆく兄は 湊圭史
ちっちゃいなあ、この兄は。この種のスケールの変換が生むダイナミズム(映画「ミクロの決死圏」をご覧あれ。お釈迦様の掌を出られなかった孫悟空の話を思い出されよ)が、蚊柱のダイナミズム(交尾を思えば、なおさらのダイナミズム)と結びついて、生きているのか、魂となったのかも判然としない兄が、神々しく霊的な存在に見えてきます。
雁帰る水平線に海坊主 すずきみのる
「海坊主」はつまり海への畏敬ということで、妖怪をこのように一般化するのはつまらないのですが、やはりそういう面はありますでしょう。水平線のあたりに何がいるかといえば、まちがいなく海坊主、という心性を、テレビドラマ「ゲゲゲの女房」で私たち日本人は思い出したのでしょうか。
いかり肩秋より遠きはうへゆく 俳句飯
「より」が起点を表すのか比較なのか、私には最後まで決められず、「いかり肩」がいよよの存在感をもって、イメージの中心に坐ります。いかり肩をもつ、この人の強靱さが、条件を削いだかたちで伝わる句。
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ウラハイ、コミケ関連2作品より。
八月十五日正午やトイレ待ち 松本てふこ
8月15日は、なんてったって特別な日です。その日の正午は特別な時間です(≫動画検索)。その瞬間、よりにもよってトイレの列に並んでいる。「大群衆とトイレ待つ」です。どっこい、日本人はまだ滅びずに生きている。
長き夜の輪転機みな肌色に 藤幹子
グラヴィアのヌードを夜を徹して高速印刷。虎がぐるぐる廻るうちにバターになったように、裸体というイコン、人肌というテクスチャーが、液化していく。20世紀から21世紀にかけての、これはたしかな景色のひとつ。すばらしく重要な句。
余談ですが〈飛脚犬黒猫ペリカン月夜野へ〉の句、3社まではわかるのですが、犬がわかりませんでした。カンガルーも入れてくれよと西濃運輸。
ところで、コミケ(コミックマーケット)というもの、こういうものという情報は得られますが、そこからもたらされる私の理解は貧相なもので、結局、コミケがどんなものか、わからない。こうした巨大な文化の溶鉱炉のようなものは、それを近くして体験的に理解するしかないものなのだと思います。つくづく。
でも、わからないなりに、祝祭であるとは想像できます。山口昌男が生きていたら(って、生きてますがな!)、コミケについて、中心と周縁、文化の両義性、バフチン出自の価値転倒等(古い? でもスタンダード)でもって語ってくれると思うのですが、その手の文化人類学的分析は、すでに厖大なものがあるのでしょう(出来のいいのを読んでみたい。ご存じの方、教えてください)。
■岡田一実 銀の粉 10句 ≫読む
■松本てふこ フジロックみやげ 12句 ≫読む
■小豆澤裕子 踏ん張る 10句 ≫読む
■小川楓子 その窓に 10句 ≫読む
■しなだしん なんとなく 10句 ≫読む
■岡本飛び地 病室 10句 ≫読む
■たかぎちようこ めし 10句 ≫読む
■高山れおな 昨日の明日のレッスン 46句 ≫読む
〔ウラハイ〕
■松本てふこ コミケに行ってきました 10句 ≫読む
■藤幹子 あれを好く コミケ想望句群 10句 ≫読む
〔投句作品〕
■湊 圭史 ギンセンカ 8句 ≫読む
■すずきみのる げげげ 10句 ≫読む
■俳句飯 秋より遠き 5句 ≫読む
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2010-09-05
【週俳8月の俳句を読む】さいばら天気
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2 comments:
拙句とりあげていただいて、ありがとうございます。
「犬」はフットワークエクスプレス株式会社ですね。たぶん。
ありがとうございます。
フットワークエクスプレス。寡聞にして存じ上げず、初耳でございます。
でも、ちょっとすっきりしました。
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