【週俳9月の俳句を読む】
山田露結 「さいばら劇場」と「みのる亭」
有季定型にある種の完成度を求めたり、あるいは読み手によってさまざまな解釈の生れるような難解性を探ってみたり、また、ある共通の知識やキーワードによってのみ解読可能な手の込んだ言葉遊びをしてみたりと、俳句にはいろんな遊び方、楽しみ方があります。
同時に、まあそう肩肘張らずに、もっとベタに遊んじゃいましょうよ、というやり方もあるでしょう。
なぜ妻は真夜中に泣く冷蔵庫 さいばら天気
ひね胡瓜揉んだりピアノ鳴らしたり
にんじんにフォーク突つ立ち最終戦争
貧乏はいやだと泣かれクリスマス
死がふたりを分かつまで剥くレタスかな
「にんじん」(結婚生活の四季)と題された10句作品。
夫婦の物語の要所要所を断片的に繋げて見せていて、まるで人情映画の予告編を見ているようでもあります(私は咄嗟に「東京日和」監督:竹中直人/1997年) あたりを思い浮かべました)。
こういう切り口の見せ方はこの作者のセンスの光るところ。
もちろん、ある程度の脚色はあるのでしょうがこの手の作品は奥さんを心から愛していないと作れません。普段からずいぶん可愛がっておられるのでしょう。
この10句から一句一句取り上げて云々するのは無粋というもの。何かお気に入りの曲をBGMにしながら(私ならやはり映画「東京日和」の主題歌「ひまわり」/大貫妙子ですね)、笑いあり涙ありの「さいばら劇場」を心ゆくまで堪能しましょう。
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花咲かそとて爺婆を押しつぶす すずきみのる
桃太郎密かに桃の実を食し
竹の秋雀の舌はいらぬかえ
冬に入り狸の背の傷も癒え
生御霊巷説に彼(か)は金太郎
「とんと昔あったげな」というこちらの10句作品もまたこの作者独特の遊び方をしているようです。
どの句も昔話を下敷きにしていて、それぞれの話の裏事情だったり、その後だったりして、思わす「クスッ」と笑いがもれてしまいます。
落語の落ちを聞いたときのようなこのさりげない「クスッ」というのは俳句にとってひとつの必要不可欠な側面ではないかと思います。
この頃ちょっぴり人生に疲れていると感じているあなた。ほんの少しだけ時間を作って「寄席みのる亭」に足を運んでみませんか。
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2010-10-03
【週俳9月の俳句を読む】山田露結
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