〔週俳12月の俳句を読む〕
飽くなき
阪西敦子
寒林の背筋のなかを抜けにけり 土肥あき子
背筋のある林、全体がさまざまに立ち上がっているのではなくて、木々の連なりのある林だろう。葉が落ちて、その、連なりの天辺のますますはっきりしたそのもとを歩いて抜けた。「背筋」はひと言で寒林の様子を描き出す一方で、それを抜ける人の背筋も思わせて、通り抜けるときの暗さ、寒さ、緊張が感じられる。読むものの外へも内へもうったえる、無理なく不思議な句。〈雪しんしん夢のなかでは鳥けもの〉もまたそういった内も外も感があって、ずっとゆられていたい句。
家のドアうすく光りて水仙花 上田信治
そういえば実家の玄関の前にも水仙が植えてある。
水仙の明るさか、その香りか、また帰宅の安堵感か、家のドアが光って見えるという。飽きるほど、もう気づくこともないほど、前々から植えてあること、その香りの鬱陶しいほどの明らかさ。その、水仙の「実家感」というようなものが、さらりと描き出されていて、読み飽きずに読んでしまう。
綿雪や糸ひくものを食ひをれば 高橋博夫
綿雪が降り始めたか、綿雪が降っていることに気づいたか、綿雪になったのか。ふと気づけば綿雪、ふと気づけば糸引くものを食べている(これは、危ない状態のものではなくて、最近の流行の血液をさらさらにしてくれるねばねば系食物ですよね)。糸を引く食べ物は、どことなく人を安心させる。そして綿雪は粉雪より暖かそうで、ぼた雪より乾いていて、しかも自分は暖かい部屋の中にいて。そうか、これを食べたから綿雪が降ったのかなどという、無責任な想像も沸くほどにゆったりした時間。なんだか妙にあとをひく句。
葉に触れて柊の花こぼれけり 広渡敬雄
普通にしていて、柊の花が葉に触れることなどはない。これはやはり風か、枝に触れた人の手の仕業なのだけれど、花が葉に落とされてしまったとした。柊の気高い咲きようと落ちようを、柊に寄り添って描いた。柊へ寄せる作者の視線の親しさを繰り返し味わう。
■土肥あき子 雫 10句 ≫読む
■上田信治 レッド 10句 ≫読む
■高橋博夫 玄冬 10句 ≫読む
■広渡敬雄 山に雪 10句 ≫読む
■荒川倉庫 豚百五十句 ≫読む
■十月知人 聖家族 ≫読む
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