2011-01-09

林田紀音夫全句集拾読148 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
148




野口 裕



雨だれの石責めの夜の音深まる

昭和四十九年、未発表句。何に由来するのかは不明だが、紀音夫にはいつも己を責めているところがある。折しも雨。石を叩く雨音に何を回想しているのだろうか。

 

夜ごと新し燐寸の火溺れる

昭和四十九年、未発表句。マッチの用途が限定されつつあった時代の句。同じ頁に並ぶ句から考えて、線香を点す目的だったと思われるが、句から見ればそれはどうでも良いことだろう。時代から取り残されつつあるものに託した思念。とことんそうしたことにこだわろうとする意志は明確に読みとれる。

 

風葬の鍵穴をいつ通り抜ける
鍵穴を抜けて風葬身近かにする

昭和四十九年、未発表句。二句並んで記載されている。どちらがよいのか、にわかには決しがたい。第一句集の章題に「風葬」があるように、風葬は紀音夫にとって好みの素材だろうが、作句例は少ない。鍵穴と風葬の組み合わせがユニークである。

 

海濃くて旅の頬杖午後に移る

昭和四十九年、未発表句。旅吟。燃焼度は低い。低いままに終わっているところが当方の好み。旅行途中の、移動としか言いようのない弛緩した時間の流れが妙に落ち着く。

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