2011-03-20

〔週俳2月の俳句を読む〕田中英花

〔週俳2月の俳句を読む〕
そこに添ってゆく
田中英花


人に呼吸雛は桐の箱の中  神野紗希

雛人形を出す前の心境であろうか。
箱から出す前の気持ちを、あれこれ言わずに、「人に呼吸」と、客観的に表現していることで、微妙な心の動き(高まり)が、かえって良く見えてきそうである。
名詞だけの句であることも、その気持ちを読み手に委ねることに繋がり、一年ぶりに開ける雛の箱への感情が伝わってきそうである。
実際には大きな箱がいくつかあり、その中に、人形毎の箱があって、雛を出すのは結構大変な作業となるのだが柔らかい紙に包まれた雛の顔が思われ、雛もまた、その時を待って呼吸を合わせているような気さえする。
雛の句として、とても惹かれる句であった。



花菜風君洗濯をしているか  神野紗希

花菜風に色を感じるせいであろうか、なんとなく成就しなかった恋のにおいみたいなものを感じてしまった。
菜の花を吹く風に、気になっていた気持ちが、ふとよみがえったのかも知れないし、いつも気になっている人かも知れない。
何かを志し、忙しい生活を余儀なくされているその人であろうか。
洗濯は出来ているのだろうかと、思いをはせる。
一面に咲く菜の花の景色は明るくて、ちょっと寂しい。
けれど、「しているか」の下五の措辞からも、いかにも春らしい光景であることからも、「私は元気よ」と、つぶやく作者の声が聞こえてきそうである。



だれもみなうしろの塔が気になりぬ  鴇田智哉

無季なのに、「耳の林」の10句の中で、とても季節感を感じる句であった。
「塔」という硬質なもの、時代性のあるもの、と、「気になりぬ」という気持ちを思うとき、冬であろうなと思ってしまったのである。
言葉にこそ出しはしないが、だれもうしろの塔が気になっているようだ。
言葉通りの、そういう光景だと思うが、この作者の俳句は、言葉がたくさんの意味を持っているようで、読み手の方が、そこに添ってゆくような気がするのである。



耳といふ肉が雑木のこゑをきく  鴇田智哉

やはりこの句も、雑多な樹木の声が聞こえるのは寒の頃かと思い、耳も肉かと感じたこの季節の思いに添うことができるのである。



鎌首の光が刎ね上げたる凍てか  佐怒賀正美

鎌首の光に、痛みと凍てを感じたのだろうか。
刎ね上げるの文字から、瞬間に放たれる光に感じる痛みと凍ては同種のものだろう。一瞬の光が痛い。



トイレタンクの上の造花や冬日差す  榮 猿丸

窓から差す冬日に、人工の花、造りものの花であることが、さらにあらわになる光景。
色褪せたいかにも造花らしい造花にも、差す冬日にも、そこに用を足す作者にも、狙ってはいない何かを感じる。



タクシーに滑り込みたるフェイクファー  西原天気

ミンクなどの本物の毛皮と違って、若い女性達が着ている白やピンクなどのオシャレな毛皮をフェイクファーというのだろう。
そんな艶やかな毛皮が、滑り込むようにタクシーに乗り込む景が目に飛び込んだ。
が、それも一瞬のこと、ドアが閉まると同時に、都会に消えていったのである。
見てしまった光景が忘れられない。


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