〔週俳3月の俳句を読む〕
蛇口の向こう
岡本飛び地
フルートのトリル乱るる蝌蚪生るる 淡海うたひ
中学生の頃、放課後になると音楽室からフルートの音が聞こえてきた。音楽部(吹奏楽部ではなかった)が毎日練習していたのだ。だからフルートの音色や、練習中の、それこそトリルの乱れは馴染み深い。
完成されたフルートの演奏は、ガラスのように透明で整った印象がある。それだけに、失敗はわかりやすい。
ガラスに入ったヒビというよりは、歪みに近い。
この句を一読して、なんだか納得してしまった。
確かに、あの丸くて小さい生き物は、フルートのトリルの乱れのような見えない歪みから、ぽろっと零れて生まれるように思えてくるように思えてならない。
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水道管枝分れして春の空 赤間学
つい最近まで、自分の家の蛇口の向こうがどうなっているかなんて考えたことがなかった。もちろん、大元のところから管が繋がっているとは知っていたけれど、その大元から枝分かれしながらみんなの家に繋がっている様を想像したことは無かった。
さらに最近、テレビで浄水場を見た。
水が外の空気に触れているのが意外だった。
体が水に溶けて蛇口の中に入っていくところを想像する。
狭い水道管の中には水が充ちていて、真っ暗で、その中を流れに逆らって進む。
時々、他の管と合流しながら、管は広くなる。
同じように溶けた人がいても、真っ暗だから気づかない。
飽きるほど進んだ頃にやっと広く明るくなって、水面に辿り着く。
水面から顔を出すと、暖かい空気に触れて、青空が広がっている。
現代の生活と自然の乖離が嘆かれることがあるけれど、私たちが今使っている水道水は確かに、春の空と繋がっている。
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シャボン玉吹くよ利き手を直されて 望月周
右手に瓶を持ち、左手でシャボン玉を吹こうとする子供と、それを持ち直させようとする親が見える。
なぜ左利きに生まれた子供を右利きに直そうとするのか。
確かに、右利き用に作られているものは多く、生活する上で不便はある。
しかしシャボン玉はどちらの手でも同じように吹ける。
それでも子供の利き手を直そうとするのははぜだろうか。
もしかしたら、
ハサミで紙をうまく切れないことよりも
書いている文字が手で隠れることよりも
みんなが右手でシャボン玉を吹いている中、
一人だけ左手でシャボン玉を吹いていること
つまり、自分の子供がマイノリティになることが怖いのかもしれない。
第202号 2011年3月6日
■淡海うたひ とことん 10句 ≫読む
第204号 2011年3月20日
■金原まさ子 牛と葱 10句 ≫読む
■今井肖子 祈り 10句 ≫読む
■九堂夜想 レム 10句 ≫読む
第205号 2011年3月27日
■望月 周 白湯 10句 ≫読む
投句作品
■澤田和弥 土筆 ≫読む
■十月知人 ふおんな春たち ≫読む
■園田源二郎 日出国 ≫読む
■赤間 学 春はあけぼの ≫読む
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2011-04-10
〔週俳3月の俳句を読む〕岡本飛び地 蛇口の向こう
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