林田紀音夫全句集拾読 228
野口 裕
銃眼にひかりの綾の蜘蛛の糸
昭和五十七年、未発表句。「ひかり」だけが、ひらがな書き。そこに技巧よりは、ありのままを詠んだだけという率直性を感じさせる。
銃眼は城壁などに穿たれた射撃用の小窓を指すので、銃撃の際に用いられる照準器とは関係がない。しかし、ライフルや望遠鏡などの照準器に蜘蛛の糸でできた十字線が貼られているのを思い出したりもする。五七五を書いてから、句に用いた物同士の取り合わせに親和性があることに気づく。そうしたことは、時々ある。この句もそうした一例だろう。
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何の鳥梢を離れ夢寝を往き
昭和五十七年、未発表の最後の句。作句時に年の終わりという気分もあるのだろう。「何の鳥」が私とは何かという問いを含み、あてどない鳥の飛行に自画像を重ねる。
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何故かハモニカ落日に半身を染め
昭和五十八年、未発表句。夕暮に嫋々たるハーモニカの調べと来れば、いかにもありそうな設定。やたらと類句がありそうだが、検索エンジンで調べた結果数はそれほどでもない。おそらく、北原白秋の「病める児はハモニカを吹き夜に入りぬもろこし畑の黄なる月の出」が、この種の詩的発想を決定づけたが故に、後続が続かないのだろう。
また、「ハモニカ」、「ハーモニカ」いずれの語の響きも、五七五における音の調和を乱すようなところがある。紀音夫のハモニカの句は、その点を七五七の変則で補う。「ドラム罐叩きて悪き音愉しむ」の変奏を求める内に、情緒が先祖返りしてしまった、というような趣ではあるが。
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2012-08-26
林田紀音夫全句集拾読 228 野口裕
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