林田紀音夫全句集拾読 230
野口 裕
編針に繊くかそけく夜がつながる
昭和五十八年、未発表句。編物をしている人よりは、その指先を見つめる。夜が深まってゆく。
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繃帯に海のきらめきそのざわめき
昭和五十八年、未発表句。繃帯に燦めく海を見るところは、治癒回復を望む未来を指す。ざわめきは、身体的不調と過去の記憶をない交ぜにしたような感覚だろう。過去と現在に当たるか。
繃帯は外傷に伴う医療具であるため、点滴・眼帯などに比べると紀音夫句の中では少ない。出てくるときは、戦争の記憶を引きずることが多い。この句の中にも、そうした意を込めようとして、「その」という不用意な措辞が出てきた、と推測できる。
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灯ともれば海の匂いが近くなる
昭和五十八年、未発表句。言われてみれば、なるほどという句。紀音夫にはこの類いの句は少ない。
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ペリカンに曇天永く刻まれる
昭和五十八年、未発表句。ペリカンが万年筆のことだとすると、「鉛筆の遺書」のバリエーションとなるが、さすがに考えすぎ。動物園あたりでの実景描写と取る方が自然である。フラミンゴや孔雀などであれば曇天との対比が読み取れるが、ペリカンでは対照がはっきりしない嫌いもある。その曖昧さが、返って紀音夫を引きつけたのだろう。
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2012-09-09
林田紀音夫全句集拾読230 野口裕
Posted by wh at 0:03
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