郷愁
小池康生句集『旧の渚』の一句
西原天気
晩夏光鳶は遠くへ行かぬ鳥 小池康生
くるくると輪を描いて飛ぶ鳶だから、「遠くへ行かぬ」と、掲句は明快。
ただ、勝手な読み方を許してもらえるなら、鳶は、私個人の郷愁と分かちがたい。
鳶は日本中どこにでもいるのかとも思っていたが、考えてみると、いま住んでいるところ(東京西郊)では見たことがない気がする。故郷では毎日のように目にしていた(ような気がする)。
生まれ育った場所から「出たい出ていきたい」と見知らぬ外の世界に恋焦がれた。イナカに暮らす十代の多くはそうではなかろうか。その憧れや、出ていけない焦燥が、見上げる空に舞っていた鳶と、いま思えば照応する。鳶は、遠くへ行かぬ鳥であり、そこにとどまる鳥なのだ。
そう思えば、「晩夏光」とは、この景になんとふさわしいことか。
なお、集中《無花果は簞笥の色をしてゐたり》もまた、郷愁にじわりと訴えてくる句。
郷愁郷愁とうるさいことで、すみません(年をとったなあ。もうすぐ死ぬのか、私)。
2012-09-02
郷愁 小池康生句集『旧の渚』の一句 西原天気
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