林田紀音夫全句集拾読 235
野口 裕
椅子ひとつ夕日の中に取り残す
昭和五十九年、未発表句。ぽつんと取り残された椅子に感情移入する作者。いつしか自画像と重ねる。昭和六十一年「花曜」に、「日の椅子にむなしさ残る膝がしら」の類似句。
待針の茜を選ぶ日の終り
昭和五十九年、未発表句。たまたま茜色の待針を選んで、一日の終わりを感じた、という趣か。動作の主体と視線の主体とが、食い違っているような印象があり、成功した句とは言いがたい。だが、待ち針を選ぶほんのちょっとした動作に、感興を覚えるところ、紀音夫らしい。
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日が射して乾いた音の新聞紙
昭和五十九年、未発表句。細やかな観察眼の生きている句。大掃除の時に古新聞を読み出してしまうのを思い出すが、句の眼目はあくまで音に集中している。
どんぐりが照るさざなみの池よりも
昭和五十九年、未発表句。まだ、夕べとは言えない秋の午後の微妙な時間帯を想像してしまう。団栗の鈍い光沢にすべてが集約される。
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2012-10-14
林田紀音夫全句集拾読235 野口裕
Posted by wh at 0:15
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