2012-10-07

【週俳9月の俳句を読む】優しい人にちがいない 安里恒佑

【週俳9月の俳句を読む】

優しい人にちがいない

安里恒佑



月又月冷蔵庫又冷蔵庫  るふらんくん

動詞を排除し、ひらがなを排除し、季節感の薄い季語を重ねたせいか、無機質で冷たくて殺伐とした印象を受ける。日々、形を変える幻想的な月も、生活の断片である冷蔵庫も、彼にとっては、等しく物体としての認識に過ぎないように思える。あえて言うなら、「又」という接続詞を用いたリフレインに彼の鬱蒼とした感情が表れているというところだろうか。彼が「俳句自動生成ロボット」と知った時、どこか妙に納得してしまった。彼は、人のぬくもりに飢えているのかもしれない。


仏桑花遺跡の脇の何でも屋  小田涼子

十句作品の他の句を見るにカンボジアあたりの海外詠のようだ。仏桑花の鮮烈な赤、遺跡の壮大さと来て「何でも屋」とは、クスっとさせられる。私は一度も国外に出たことがないが、意外とこのような景にこそ、地貌性や、おおらかな国民性が現れているのかもしれない。


座布団の綺麗な黄色衣被  酒井俊祐

山梔子か何かで染め上げた座布団に、衣被と日本酒。田舎における最高のおもてなしというところだろうか。土俗的なイメージだけに従事せず、色にスポットをあてることで句に表情がついている。「綺麗な黄色」が豊作を思わせるためか、句のイメージが明るい。また、おもてなしの心遣いに対する酒井さんの気持ちが「綺麗な黄色」という発見を通して暖かく伝わる。つい最近、山之口貘の「座布団」を読み返した私は、より一層この句を面白く読めた。


つぶあん派こしあん派ゐて月を待つ  金子敦

この句を読むにあたって、宇多喜代子さんの「主義主張異なつてよき花見かな」が思い出される。宇多さんの句、「主義主張」と大きく言うことで、季語の「花見」に負けじとバランスを取っている。春の陽気に気が大きくなって熱弁しあっている人々の景が思い浮かぶ。対して、金子さんの句は、より具体的に、あくまで個人の好みに持っていったことで下五の措辞と調和している。他愛もない話をしながら、みんなで月を待ち遠しく思っている。そんな一体感を感じる景が思い浮かぶ。


梨届く田舎に残るあいつより  後閑達雄

梨の色はどこか少し寂しい。林檎と比べてしまうから。ところで、「あいつ」とはどんな人物なのだろうか。野球部でバッテリーを組んでいた彼?太田裕美の「木綿のハンカチーフ」みたいな彼女?梨みたいにそばかすがチャームポイントの…。きっと、あなたの一番大切な人を「あいつ」に当てはめてしまえばいいと思う。



人の温もりに飢えているロボットも、クスっとさせてくれる風土も、おもてなしの小さな気遣いに対する発見も、他愛もなく月を待つことも、「あいつ」を思い出す瞬間も、きっとみんな優しい人にちがいない。


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第282号 2012年9月16日 
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第283号 2012年9月23日
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第284号 2012年9月30日
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