2012落選展
05 高梨 章 音楽
風ひかる音楽室に水充ちて
ふらんすはここからわずか日なたぼこ
月天心よにもさみしい腹のへん
ねむたくてそこらいちめんかたつむり
春雨がほぐれるように六本木
裏側の月光の国を黒揚羽
曼珠沙華風でできてるこの世かな
ゆくへふめいの太郎の話次郎柿
曼珠沙華一羽きたりて影つくる
ピアニシモきのふのわれに会ふ雲雀
アルカリの朝のひかりの水の秋
はくれんやちひさな駅で乗り換へる
秋来る羽ばたくたびにこんぺきに
ふらいおむれつふほふくもてばひばりなく
水鳥が鏡を割つて驟雨かな
花は葉に母のあしもとうつくしき
紙ヒコーキも飛行機草の夜
前世の街のざわめき土踏まず
春風に乗る(しまった)二度落ちる
春満月やわらかくなるオートバイ
さざなみ今もすこしずつ砂になる
ひらがなの影うすむらさきのすみれ
手をふれてくだものの夜しづかに泣く
葉のなかに(はつなつ)少年感化院
この夜から別の夜へと鳥渡る
記憶から消されし銀河あるごとく
あの世の指からこぼれる蛍
樹上から舟は出てゆく恋文
空いろに人はねむりて霜柱
貝殻はとってもきれいな亡びかた
水仙の町よく響く寒気
そらみみのそらにあふるる河馬(ヒポポタマス
晩年や顔のうしろに蟻がゐる
肉食の小泉八雲せみしぐれ
ちちははの机のうへに雪がふる
白秋の死後紙燃えて夕焼け
泡雪や異類婚姻聞いてゐる
空席のごとくありけり恋心
少年ピアニシモに泣く素足雨の匂い
(逝くために)名前を変へて群青
夕焼けやさまざまな白見うしなふ
三月の群島風にさらはれる
四月の鏡のなかをあかるい船がゆく
フロイトの時計のなかの淋しさよ
封筒をひらいてねむるオフィーリア
病院の窓からふる空箱
風死して這うものたちの夜となる
猫町へあるいて五分春の夜
罰まぬかれし身をいま月光に触れらるる
泡雪や数かぎりなくアカリウム
●
2012-11-04
2012落選展 05 高梨 章 音楽 テキスト版
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2 comments:
注目句
肉食の小泉八雲せみしぐれ 高梨 章
ひらがなの影うすむらさきのすみれ 高梨 章
前世の街のざわめき土踏まず 高梨 章
肉食の小泉八雲せみしぐれ 高梨 章
小柄隻眼の人のイメージがあるので、
肉食にドキリとします
肉食と蝉時雨では、
くどいようにも思いましたが、
怪談の作者ではあるし、
それでいいのかも、、、
なお、
八雲の没したのは1904年9月26日
健啖のせつなき子規の忌なりけり 岸本尚毅
大男にてもありける利休の忌 相生垣瓜人
ひらがなの影うすむらさきのすみれ 高梨 章
象形文字が漢字になり、
平仮名にまで抽象化されたところで、
影を持ったのです
その影が、再び、
菫に生れ変ろうとしています
773のゆらめきも
平仮名のあわあわした感じです
前世の街のざわめき土踏まず 高梨 章
前世の、
自然ではなく、
街なのが目を引きました。
活気ある街ゆえ、
足裏から伝わってきます。
あ、これ無季俳句、、、
土不踏ゆたかに涅槃し給へり 川端茅舎
ちちははの机のうへに雪がふる 高梨 章
空いろに人はねむりて霜柱 高梨 章
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