2012落選展
06 上田信治 二つ
二つある小さな方が春の橋
木の中を飛ぶ鳥のゐて椿の木
石鹸玉へと夕焼のつめたさよ
春暁の鉢の氷のなかにも鉢
牡丹の芽きのふの雨がまだ空に
枝だけの薔薇あたらしい棘の赤
紅梅のむかしの町とおもひけり
白梅にうしろ歩きもしたるかな
傷ついた手を手が隠す春の雪
風船がわたしの肩へ来てとまる
春走る子らに取り囲れ抜かされ
月おぼろ店員二人まへ見てゐる
ねむる前もう一度さはる春の雲
朧夜の毛布動くは笑まふかに
西日とても背にあたたかく夢のやう
同じマスクがずつと落ちてゐて夢のやう
送りくれし春の写真の皆夕方
鳩の恋いつもの壁に日の当る
散歩犬ときどき春の遠くを見る
蛤のもやもやと出す明日かな
たこ焼のしづかに並ぶ春の雨
沈む木にうすく泥積む涅槃かな
永き日や擦つて燐寸に火の点けば
釜のみづ水のままなる春の空
野遊びの片手の濡れて帰りけり
春の蕗なだらかにやや低きまで
目のまへの川の暑さの四月かな
家出れば道濡れてゐて田螺鳴く
つの出して夜の田螺は悪いもの
卵の殻こつりとへこむ遅日かな
半熟の黄身舐めてとる春の風邪
花冷えの白い夕日がベッドの上
針金入り硝子に雨滴八重桜
ひるがほの蔓のびでたる躑躅かな
五月の雨自分の靴が歩いてゆく
チーズスコーン袋に透きて春の海
鳥のこゑつちふる町に人びとは
春一日へうたん池はこのかたち
歩みきて二人はいとこ花は葉に
糸ほどのあをむし指に載せて君
傷少しふくれて癒ゆる残花かな
てふてふの誰とも遇はず日の暮に
松の花深くうつむいて一人笑む
星辰やひこばえは木になるつもり
ふくれゆく梅の実雨にまみれをり
そこかしこから鶯の鳴く仕組み
人指しゆび風を回してあたたかし
雨匂ふ春をうしろへうしろへと
月おぼろ二つのごみを一つにし
うららかや最上階へ着くリフト
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2012-11-04
2012落選展 06 上田信治 二つ テキスト版
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沈む木にうすく泥積む涅槃かな 上田信治
糸ほどのあをむし指に載せて君 上田信治
家出れば道濡れてゐて田螺鳴く 上田信治
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