2012-12-02

【週俳11月の俳句を読む】柘植史子

【週俳11月の俳句を読む】
片言の寒さ

柘植史子


血を抜かれる今日が寒い   矢野錆助

今どき、売血や瀉血などは考えにくいから、血を抜くのは献血だろうか。しかし献血は普通自分の意志でするものであると思われるのに、「抜かれる」という受動態からは前向きな明るさの欠片も感じられない。献血という善行に対して偽悪ぶってみせる、少し屈折した作者を想定する。「今日が寒い」という、日常の言葉遣いを逸脱した表現に切迫感がある。「寒い」に季感は薄い。心が寒いのだ。血を抜けば更に生理的寒さも加わってくる。


枯れ葉転がる音の快晴   

枯れ葉の転がる音を快晴と表現する共感覚に納得する。乾燥した晴天でなければ枯れ葉は転がらないだろうし、音をたてて転がってゆく葉っぱは実に嬉々として見え、晴天と響き合っている。3+4音プラス3+4音の反復が次々と走り出す枯れ葉の様子を連想させ、句が描き出す情景に動きをもたらしている。こま切れな言葉とK音の頭韻が生み出す独特のリズムは乾燥した空気感を引き出し、カサカサに乾いた心の寒さを思わせる。



第290号2012年11月11日
森賀まり 左手 10句  ≫読む

第291号2012年11月18日
中嶋いづる 秋熟す 10句  ≫読む 
谷 雅子 雨の須賀川 10句  ≫読む 
石原ユキオ 狙撃 10句  ≫読む

第292号2012年11月25日
矢野錆助 緑青日乗 10句 ≫読む
 












0 comments: