【週俳11月の俳句を読む】
The Consideration of the Difference between
the Words, Including Their Accompanying Images, and the Anatomical Actuality.
(言葉及び其れに伴うイメージと解剖学的現実の相違点についての考察)
林 友豊
俳句を読むとき、どうしても自分の体験に置き換えること、疑似的な経験を行うことをしてしまう。俳句の中には様々な言葉があり、季語があり、そこにはそれに付随するイメージと呼べるものがある。総合的に構成された言葉を、自分という現実に引き寄せて考える。以下の記載は決して医学的助言や科学的発言を有するものではないということをご容赦いただきたい。
顔ちがふやうにも見えて芒原 森賀まり
芒原の中に人が居る。恐らく2人。芒原の中で一人が手鏡を持っている様を想像するのは深く考えすぎだろう。一人が他人を見る。仲の良いと思われる相手の顔を見つめたとき、そこには知らない顔がある。芒は揺れる。手を振るように。知っている人との惜別を彷彿させるように。ほら、アナタの顔がアナタじゃなくなる。更に別の他人の顔に変化し続ける中に、ふと、見知った顔がある。芒原の真中で探していた人が居る。Case 1. Troxler effectおよびFlashed Face Distortion Effect。
しぐるるや棺の中にある隙間 石原ユキオ
冷たい雨が降っている。さっきまでは降っていなかったのに、気が付けば窓の外の道路には小さな水たまりが出来ていた。ここは斎場か式場か。一室の中に棺が一つ置いてある。涼やかな風が何処からともなく流れ込んでいる。外気ではない空気。腐敗を防止するための冷房。棺には誰が居るのか。生前とは違う人。息も絶え,動かなくなったアナタは私の知った人じゃない。白く紋の入った布張りの棺を眺めていると、うっすらと隙間が見えた。わずか数ミリの隙間がある。その隙間から手が伸びる。薄い手から細く枯れた手が私へと延びる。そんな錯覚を抱いた。Case 2. Emotional illusion.
後ろから自転車枯れてくる真昼 中嶋いづる
木々が枯れる。冬の季節。真昼の最中に枯れ始めたのは自転車だった。冬の日ざしが低く暖かく、その無機質な人力機械に温みを帯びさせている。自転車を漕ぐ。日差しはあるものやはり寒い。冷たい風を切る。鼻が赤くなるのが解る。目が開けづらい。吸う息を数十度も温度を上げて吐き出す。逃げないと。逃げないと。すでに自転車の後ろが枯れている。アレに巻き込まれたら。私が、枯れる。Case 3. Obsessive-Compulsive Disorder.
中通りもみぢ透けゆく雨となる 谷雅子
福島は中通りに秋が来た。紅葉が眼に入る。今日の天気は曇りのち雨。約20か月前、大きな地震が東北を襲った。群発する誘発地震や断続的に起きる余震。支援の手があり、励ましの言葉があり、そして、未だに残る傷跡があり、進まない復興がある。しかし、時は移ろい自然は変わらない。秋となり葉が色づき、雨が降る。ぽつり。一滴を初めとして、一気に降り始めた、その雨には慈愛があるのか。雨は赤や黄色に染まった木々の葉を打ち続ける。ナニカが洗い流され、透明になっていった。Case 4. Posttraumatic stress disorder.
血を抜かれる今日が寒い 矢野錆助
ゆっくりと太い針が腕に刺さる。皮膚の上皮組織を押しのけ、先端が腕部の静脈に到達する。斜めに貫いた針から赤黒い血が現れる。本来なら漏れ出づる事のなかった自らの一部が外界の容器へと移される瞬間。血が抜かれている。体内に針が残る違和感と確実に減少する体内の血液量。全てが終わって外に出たときには、来る前より寒かった。きっと減った血液の所為なんだろう。そうして私は生きているのだと知った。Case 5. Blood donation
第290号2012年11月11日
■森賀まり 左手 10句 ≫読む
第291号2012年11月18日
■中嶋いづる 秋熟す 10句 ≫読む
■谷 雅子 雨の須賀川 10句 ≫読む
■石原ユキオ 狙撃 10句 ≫読む
第292号2012年11月25日
■矢野錆助 緑青日乗 10句 ≫読む
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