「俳句 Gathering」見物記
野口 裕
久留島元さんから第一回「俳句 Gathering」の案内をいただいたのが一月前の話。追いかけて実行委員長の三木基史さんからも案内があった。
俳句を初めたばかりか、まったくのやったことのない人と、呼吸するかのように日常俳句と関わっているいわゆる俳人とをつなぐべく企画されたイベントのようだ。11月に京都で、現代俳句協会青年部のシンポジウム「洛外沸騰」が行われたが、それに続く関西での企画ということである。当方は仕事で11月は出席できなかった。家から手近な繁華街で行われるこのイベントには参加しようと、12月22日に神戸の生田神社会館まで出かけた。
会場には主催側の三木、久留島の他、イベントで審査員を務める小池康生さん、佐藤文香さん、山田露結さんの顔があり、佐藤とともにブックコーナーで「guca」の売り子を務めた石原ユキオさんの顔も。当方にとっては旧知の川柳作家、樋口由紀子さん・小池正博さんの顔も見える。というふうに見回すと、あまり五七五をやっていなさそうな顔ぶれがいない。イベントの趣旨から考えて大丈夫かいなと心配になったが、イベントの進行とともに会場に詰めかける人も増えてきた。杞憂だったようだ。
第一部は、少々会場が寂しい状態でスタート。「~五・七・五でPON~」と副題の付いた、天狗俳諧。上五、中七、下五を別々の人が作って一句にする遊戯。なんとこちらも駆り出されて下五をつとめることに。冬の食べ物という題で、小池正博が「湯豆腐や」、小池康生が「皿の光りて」、当方が「はふはふはふ」と来て、見事な駄句ができあがった。紅白の句あわせは、もちろんこちらの負け。責任はひたすらこちらにあり、両小池には申し訳ない。とは言うものの、負かされた相手チームの句を覚えていない。相手チームのメンバーを覚えていない。審査員が誰だったかのも。審査員くらいパンフレットに書いてあるかと見返すと、パンフレットにもなしと、いかにも天狗俳諧らしい成り行きである。
個人的には、題あり、季語を入れる場所を決めてと、天狗俳諧にしては少々ルールが多すぎる気がした。たぶん、「見せる」ための工夫だったのだろう。常々、天狗俳諧の手法で句を作ると豪語していたらしい火渡周平の「セレベスに女捨てきし畳かな」が妙に頭の中で鳴り響いていた。
第二部は、「俳句の魅力を考える」と題したシンポジウム。パネラーは、小池康生、小倉喜郎さん、中山奈々さん、司会が久留島。シンポジウムのやりとりで特に面白かったのは、句会のとらえ方で、句会を修行の場ととらえる小池、社交の場としてとらえる小倉、メール句会が主となってリアルの句会にあまり行かなくなった中山と三者三様の立ち位置が見て取れた。このあたりの対立点、特に小池と小倉の違いを掘り下げると、一口に句会と言っても多様なあり方を示す句会の現状にメスを入れることになったろうが、はたしてそれが会の趣旨に合っているかどうかはわからない。第二部での観客を見ると、俳句経験者と俳句未経験者の割合は前者に偏っていたようなので、掘り下げる価値はあったか。司会は句会のありようについて三人に話を振ったが、さらっと次の話題に移った印象がある。確信犯だったかも知れない。各パネラーの自選二十句を上げておく。
小池康生 二十句
家族とは濡れし水着の一緒くた
濯げども濯げども夕立の匂ひ
四万六千日東京タワーにも寄りて
アイスコーヒー美空ひばりがよく来たの(中山)
天高しゆえに二三羽零れ落つ
十月や詩を詠む空をひろくとり
空はまだ高さを決めず朝焚火(小倉)
白菜の一番外のやうな人
数へ日の換気扇より空の音
風呂吹のなかの炎にゆきあたる
宝船よりも大きな頭蓋骨
邦題がとつてもいいの日脚伸ぶ(中山)
さいごまであたまの味の目刺かな
えんぴつ一本どれだけの蝶描けるか(中山)
蝶の昼端見つからぬセロテープ
ぼうたんの手前に風の止まりをり
さくらんぼ夜明けのやうに酸つぱくて
螢狩鉄路の上を歩みけり(小倉)
馴れ鮓の馴れて近江を遠ざかる
裏側は楽屋のごとき水着かな
小倉喜郎 二十句
空梅雨や向き合っているパイプ椅子
階段にキャッチャーミット鳥渡る(小池)
傾いて電車が止まる四日かな
声出して数える冬の金魚かな
マネキンに落書き急がねば急がねば
アロハシャツ着てテレビ捨てにゆく(小池)
ホットレモン階段続く箱の中
カプセルホテル出て熊蝉の中にいる(中山)
ひとりずつスプーンとなってゆく二月
向いの家に梯子が掛かる桜鯛(小池)
アンヨハセヨと言いつつ蚊を叩く(中山)
赤ん坊の傾いているお正月
蚊を叩くあおだもの木が揺れている
湯冷めして思い出せない本能寺
マイクスタンドにマイクがなくて十二月(小池、中山)
筍をお父さんと呼んでみる
逆子のようにバスに揺られて円町へ
未曾有とは味噌汁に似て花吹雪(小池)
山積みのランドセルよりアスパラガス
豚のような兎のような春の宵
中山奈々 二十句
洋梨や太宰を読むと熱が出る
八月や魂は背より抜ける
スプーン曲げコインを消して休暇果つ
だらしなく西瓜の種の集まりぬ
何しても悪くなるバナナが甘い(小倉)
爪の根の皮膜削りし桜桃忌(小池)
コンドルは飛んでゆく菜の花ゆがく(小倉)
すべて分かったふりして春の油揚げ
猫の恋三文判で済ませけり
耳鳴りと頭痛と春のキャベツかな
玉葱の皮立冬の塵として
末枯れや煙草の匂ひつけて戻る
冬帽の嫌がつてゐる上座かな
湯ざめせぬやうに若草物語
白髪まず髭に現るおでん酒(小池)
児童書の中に漱石秋深む
逆さまの訂正印や轡虫(小倉)
左手はかつての利き手檸檬もぐ
ゆつくりと暮れて桜の実の酸味
全集は別の本棚秋深む
( )は選と言うほどではないが、自選に対して他のパネラーが話に触れた句である。
第三部は、選抜句相撲。会場の参加者から各人一句(兼題は「冬の星」)を投句してもらい、まず二十句抽選する。その後、一対一で二句ずつ比較して良いと思う方に審査員が旗を上げる。多い方が勝ち上がり次の対戦となる。審査員は堺谷真人さん、工藤惠さん、仲田陽子さん、涼野海音さん、藤田亜未さんの五人。ここで、それぞれの対戦の時に審査員がどちらの句に上げたかが分かれば興味深かったのだが、さすがにそれは記憶にない。A対Bで負けのBに上げ、C対Dで勝ちのCに上げた審査員がA対CではAに上げるということがあったようだ。選評で審査員自身も口にしていた。相手となる句によって句の見え方が変わるらしい。
優勝句は、「冬の星卵の向きを変えてやる」。記憶が少々曖昧で、上五が冬銀河だったかもしれないが、多分冬の星だったかと。
句相撲の後半、妙に会場がざわざわしてくるなあと思っていると、第四部に出てくるアイドルグループPIZZA・YAH!(http://www.kansai-idol.com/f-pro-pizzayah.html)目当てのファンが押しかけてきたのだった。第三部と第四部の間にはライブステージもあり、グループの一員のブログ(http://ameblo.jp/miyazaki-rio/entry-11432702409.html)には、「前に出て振りコピとかやれる感じやなかった」と付けられたコメントがあり、押しかけるファンの方にも途惑いがあったことが見て取れる。もちろん当方も目を点にして眺めるばかりだった。
第四部は、アイドルグループPIZZA・YAH!とむくつけき男ばかりの俳句素人集団五人組との俳句甲子園形式のバトル。審査員は、塩見恵介さん、杉田菜穂さん、山田露結、佐藤文香、三木基史の顔ぶれ。審査員の中には、片方の旗しか上げない人もいたようだが、えこひいきが目立たなかった。それほど、アイドルグループの俳句自体が際立っていた。
双方の句と勝敗は以下の通り。(曾呂利亭雑記 http://sorori-tei-zakki.blogspot.jp/2012/12/gathering.html を参考にさせて貰いました。)
『PIZZA・YAH!』
アイドル×闇鍋 〆はうどん おぎのかな(○)
初恋は大根女優湯ざめする 伊藤綾(×)
水仙花ママには少しばれたかな 宮崎梨緒(○)
寒の内鳩と雀のにらめっこ 西永京子(○)
雪女スタッドレスにKISSのあと YUKA(○)
『俺たちゃ俳句素人48』
カレー鍋一人でつつくやよい軒 遠藤朗広(×)」
一ページめくる間や煮大根 小澤翔(○)
水仙や窓に残った走り書き 三軒隆寛(×)
蜜柑喰ふ麻雀の役未完なり 河邉佑介(×)
朝もやの道髭面の雪ウサギ 河本和久(×)
特筆すべきは議論の仲立ちをした、MC徳本和俊さんの存在だ。双方が議論に慣れていれば、はい手を先に上げた○○さんどうぞ、ぐらいの司会で済むだろう。しかし、多少の打ち合わせがあったとしても、その場の成り行きで議論がどう転ぶか淀むかはわからない。すべてはMCの舌先三寸にかかっている。世間話(アイドルがこんな句作ったらイメージ壊れるよ、みたいな話)に陥りがちな議論を立て直しつつ、句に即しての議論に持って行きつつ会場を盛り上げる手腕はたいしたものだ。そのせいで後半ほど議論が噛み合ってきた。また、最前列に陣取ったファンの反応も良かった。各人が句の出来不出来・議論の巧拙を敏感に感じて反応していると見えた。アイドルグループ唯一の負けとなった第二回戦は、まあしゃあないわな、多少凡戦に見えた第四回戦は、ああ勝てて良かった、というような感じで贔屓の引き倒しではない反応になっていた。
会の特徴は、懇意にしている同年代の女性(特に名は秘す)が、野口さん誕生日はいつ?だったら、野口さんの方が年上よと、年齢を気にして言いに来るほど会場全体の年齢層が若かったことだろう。会場を見渡したときに私より年上がいたのかどうかはっきりしない。控え目に見ても、高齢者の上位五位以内に入っているのは間違いない。下手をすれば当方が一番若い、というような句会ばかりを普段やっているせいで、その点が大変貴重に思えた。三次会は、生田神社近くのスペイン料理店「カルメン」に十四、五人ほどが押しかけたが、オーナーである大橋愛由等(『豈』同人)さんが、こんなにたくさんの若手俳人を見るのは初めてだと後日述懐していたほどだ。
「俳句 Gathering」は今回だけでなく、第二回以降も考えられているようだ。二次会では、テレビ番組「アメトーク」に倣った「俳トーク」が行われ、大変新鮮な話も聞けた。そうした企画も今後登場するかも知れない。若さゆえの柔軟な発想をもとにしたこれからの展開も面白そうだ。
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2012-12-30
「俳句 Gathering」見物記 野口裕
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