【週俳1月の俳句を読む】
輪ゴム松野苑子
この中に贋の新年詠がある 福田若之
くすりと笑ってしまった。この句こそ贋の新年詠では。こんなこと言われてもねぇという句なのだが、作者も解かって詠んでいる可笑しさがある。
では、真の新年詠はどういう句なのだろうか。さしあたって、目出度くあるべし、正月らしくあるべし、ということだろうか。
日沈む頃に眺むる初鴉 岸本尚毅
裏山の扇の形の淑気かな 日原 傳
月光のしんしんとあり鏡餅 広渡敬雄
一句目。初鴉という季語の本意を句に染み透らせている。『山本健吉 基本季語五〇〇選』によれば<「初鴉」はもちろん、神の使いともされるその声を、めでたいものとして聞くのである>という。鴉は神の使いなのだ。
二句目。扇の形とはいかにも目出度い。
三句目。月光と鏡餅の組み合わせは格調高く美しい。
年賀状束ねて輪ゴム細くなる 金子 敦
この句のポイントは輪ゴムが細くなったということなので、目出度くもないし、お正月らしい空気も感じられない。輪ゴムで束ねられた年賀状があるだけだ。けれども、輪ゴムが細くなったのだから、たくさん年賀状がきたのだ。そうか、嬉しくないはずはない。嬉しいのだ、ああ、これは、お正月の嬉しさだ。こんなふうに物だけで、等身大で、お正月を詠むのは魅力的だ。こういう句も真の新年詠に入れたい。
「もういくつ寝るとお正月」と楽しみにしたころは、はるか昔になってしまったが、私も年賀状は書いている。いただいた年賀状を輪ゴムで束ねている。
第298号 2013年1月6日
■新年詠 2013 ≫読む
第299号 2013年1月13日
■鈴木牛後 蛇笑まじ 干支回文俳句12句 ≫読む
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1 comments:
「贋の新年詠」というのは、新年の時期ではなく年の暮などに詠んだ句のことかと思いました。
たしかに、ありそうです。
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