ダジャレともじりとエロの交叉点
佐山哲郎句集『娑婆娑婆』の一句
西原天気
句集『娑婆娑婆』には、次のような3つの顕著な手法的・題材的特質があります。
A シニフィアンにおける音韻の相同性を手がかりに、シニフィエにおける意味連続性に断絶をもたらす手法。言い換えれば、ダジャレ、語呂合わせ。
B プレテクストの広汎な価値浸透を前提として(しばしば批評的にメタ化することで)読みに重層化をもたらす手法。言い換えれば、もじり/オマージュ。
C エロティックな題材。言い換えれば、「佐山さん、エッチw」。
この3つの特質を兼ね備えたのが、この一句。
逝く春を交尾の人と惜しみける 佐山哲郎
3特質の交叉点、というわけで、この句集を代表するにふさわしい一句といえるでしょう。
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「3特質」には当たらない句も、気ままにあげておきます。
天高く娘ざかりを棒にふる
月光の腑に落ちてゆく固さかな
成句をうまく利用した句。
蘭を挿しすぎた花瓶のやうな歌手
「半速球」的直喩で、弛緩した可笑しみが醸されている句。
当然ながら、いろいろな句があって、それぞれ楽しめます。
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「娑婆」とは煩悩や苦しみの多いこの世のこと。句集『娑婆娑婆』は、私たちがこの世の煩悩・苦悩に暮らしていることを知っている人(それがオトナ)のための句集、そのうえでバカバカしくも哀しく心優しい人たち(それが魅力的なオトナってものです)のための句集です。
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なお、はじめの掲句もじりの元になっている句をご存じない読者は、まさかいらっしゃらないと思いますが、いちおう。《行く春を近江の人と惜しみける・芭蕉》。
2013-04-14
ダジャレともじりとエロの交差点 佐山哲郎句集『娑婆娑婆』の一句 西原天気
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