【週俳4月の俳句を読む】
ホワイトデーに上毛かるた
小川楓子
今年のホワイトデーに、上毛かるたをいただいた。わたしが、群馬県人のクォーターであることをふと思い出し、贈ってくださったとのこと。群馬を訪れたことが数回しかないわたしにとって、この郷土かるたは、ルーツのようなものをぼんやりと思わせるものだった。外山一機『上毛かるたのうた』は、自身のルーツに対する痛烈な皮肉と郷土愛が入り混じっているように感じられたが、意図するところがわたしには、まだ読みきることができていないように思う。意味はわからないが魅力的だったのが、
と…利根は坂東一の川
ここはおくにを何百里
百葉箱に
かはざかな 外山一機
であった。これから手元の上毛かるたと照らし合わせつつ、再読したいと思う。
逆光のなか剪定の人うごく 松尾清隆
逆光の向こうに剪定に勤しむ人の姿が見える。逆光という言葉には力強い響きがあり、剪定の人も動いているため、一句全体に躍動感がある。さらには、作者が感じているだろう光のまぶしさと働く人を眺めるという憧れのようなまぶしさの両方を体感できる。それでいて、動いている人を客観的に見ている作者の静かな佇まいも思い浮かぶゆえに、剪定の音のみが響く庭のしずけさも読後、感じ取ることができる。
葉桜やいの一番の鯉の口 渡辺竜樹
なんとなくけだるいような葉桜の季節特有の気分を一新するかのように、あっけらかんと開く鯉の口。葉桜と鯉の口との取り合わせが新鮮であり「いの一番の」を中七に挟むことで生れる、弾むような韻律が心地よい。葉桜と鯉の口のみであざやかに立ち上がる景がさわやかである。
のどかなる空のひと日を椅子の上 篠崎央子
おだやかな春の晴天の下、庭の椅子に座って、作者は移りかわる雲を眺めながら一日を過ごす。中七までのたっぷりとした措辞は、ゆったりと流れゆく時を感じさせ作者の満ちたりた心持ちを感じさせる。椅子の上と下五で受ける句姿もまたおおらかで、読者も隣に座って空をいつまでも眺めていたい心地となる。
エンジンの大きな虻が来りけり 西村麒麟
近づいて来る虻は、あたかもエンジンを内蔵しているかのように力強い羽音を響かせる。血を吸う害虫として忌み嫌われることもある虻であるが、エンジンを持つ存在としたことで乾いた存在感がある上、どこか親しみぶかいものとなる。昆虫の脳にある神経細胞の分析をし、電子回路で再現している研究者がいるという。昆虫のセンサーは、高機能・シンプル・低コストであり、人間と違って余計な刺激にはあまり反応しないため、理想的であるらしい。大きな虻にも、はるかな歴史を持つ種としての原始的なパワーを感じる。
太陽(ティダ)おちて月の穴掘る蟹の笛 豊里友行
太陽が沈んで、月が現れた。そして、その月もまた沈む。月が沈むときには穴が必要である。その穴を掘る蟹は、笛を吹きつつ掘り進む。という景が思い浮かぶ。しかし、この意味づけ、まったく検討はずれかもしれない。ただ読者は、太陽と月と蟹と笛の音色を感受し、琉球の風に心地よく身を任せればいいのかもしれない。わたしも、仕舞い込んだままの沖縄の笛を出して吹いてみようかという気持ちが湧いてきた。
第311号 2013年4月7日
■外山一機 上毛かるたのうた ≫読む
第312号 2013年4月14日
■豊里友行 島を漕ぐ ≫読む
■西村麒麟 でれでれ ≫読む
第313号2013年4月21日
■渡辺竜樹 鯉幟 ≫読む
第314号 2013年4月28日
■篠崎央子 日課 ≫読む
■松尾清隆 休みの日 ≫読む
2013-05-12
【週俳4月の俳句を読む】ホワイトデーに上毛かるた 小川楓子
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