林田紀音夫全句集拾読 271
野口 裕
蔦青く倉庫のままで荒れて行く
平成二年、未発表句。よくある風景。蔦よりも倉庫の方に主眼があり、倉庫自体に自画像を重ねているとも見える。倉庫の内部にはガラクタしかない。そう見えているのだろう。
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時折の船の汽笛の中に寝る
平成二年、未発表句。「時折」が、眠れぬまま寝床に横たわっていることをさりげなく示す。眠るために数える羊ほどの頻度に至らず、しかし眠りを邪魔するほどでもなく、ぼんやりと汽笛を聞いている。それが回想を誘うほどの強度を持たないのも、老境のせいと言えるだろうか。
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夕凪にはるばると来た手を垂らす
平成二年、未発表句。手を垂らす姿勢は、ぼんやりとものを眺める体勢でもある。海に沈む日でも眺めているところか。「夕凪」にかすかな焦燥感を 秘めるが、句の表層にある安堵とうまく調和が取れていない。平成三年の「海程」、「花曜」に、「渚へはひとりで降りる終りの夏」。
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2013-06-23
林田紀音夫全句集拾読 271 野口裕
Posted by wh at 0:02
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