【週俳8月の俳句を読む】
愛、燦燦と
村越 敦
人声は月に届かず月涼し 村上鞆彦
屋外で月を愛でる人々。その声が月に届かないのは自明のことであろう。というのも、声が届くという事象には声の発し手と受け手の双方の存在が必要でだからだ。月には残念ながら我々の声を認識しうる生命体は、存在しない(とされている)。
むしろこの句の妙味は月そのものが擬人化して描かれているところにある。月は人声が自身のところまで届き得ないことを知りながら、しかしあたかもそのことを関知していないかのように粛々と、いつもどおり照りまさる。一方人はというとまさか月のほうにそういう背景があるとはつゆしらず、ただ月を仰ぐ。
人間・自然、双方に対するさりげない愛を感じる一句。
燦々と市民プールの市民たち 同
手ごろで気楽な市民プールは地域住人の憩いの場である。家族連れ、子ども、老人、年代問わず多くの人が訪れる。ここで描かれているのはそんないつものプールの光景であるが、燦燦と、という措辞で雰囲気が一変する。水しぶき、光、歓声、すべてが黄金の光を纏う。それは絢爛たる公衆浴場で悠々と湯浴みをするローマ市民たちと重なるようですらある。
第328号 2013年8月4日
■彌榮浩樹 P氏 10句 ≫読む
第329号 2013年8月11日
■鴇田智哉 目とゆく 10句 ≫読む
■村上鞆彦 届かず 10句 ≫読む
第330号 2013年8月18日
■井口吾郎 ゾンビ 10句 ≫読む
第331号 2013年8月25日
■久保純夫 夕ぐれ 10句 ≫読む
2013-09-15
【週俳8月の俳句を読む】愛、燦燦と 村越敦
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