2013-11-03

2013落選展テキスト 10餃子 津野利行

10 餃子 津野利行

春の夜の二人餃子を食べて行き
水割の一口で酔ふフリージア
啜り泣く卒業式のスピーカー
作業着のままに地べたの花見酒
揚雲雀寝転んで見る草野球
子離れは先送りして花は葉に
デモ隊の拳は空に薄暑光
ディーゼルカー代田の水を走りけり
夕立や餃子にたらすゴマ油
風薫る築地試食の玉子焼き
厩橋駒形橋も風涼し
橋涼み水に流すことにして
夏場所の終えて餃子の店狭し
らしくない人も神輿に紛れをり
ハンバーガー子供神輿を取り囲み
下町に見慣れぬ顔や黄金虫
おばあちやん日傘に名札ぶらさげて
跣だけベビーカーから遊ばせて
とりあへずビールと餃子二枚から
本当は四角き筈の夏布団
サイダーの泡の動かぬ時間かな
アイスクリーム溶けゆく仲となりにけり
角立たぬ話であらう水羊羹
白玉や個性溢れる顔形
大西日墓地は閉門時間過ぎ
夏痩せの悟られぬやう焼餃子
抱つこしてもらひポストに白木槿
コスモスの揺れて小さき親孝行
団栗や落ちて馴染めぬアスファルト
叩かれし西瓜震へて答へけり
秋果積む序列社会の中にをり
子の作る餃子丸々豊の秋
足袋底の松に跨る松手入
舞ひ散るは外れ馬券や神の留守
身を寄せて十一月の水餃子
手袋のままに手術を待ちにけり
鯛焼の表の顔と裏の顔
オノマトペ探してをりぬ冬の雨
飲めもせぬ酒に寝酒と名付けたり
ストーブの火を消すボタン押すだけの
洗濯物吊してメリークリスマス
もはや子の寝付くは待てぬ聖夜かな
年の瀬や餃子に賞味期限あり
火事跡に接待の跡形もなく
カラオケの隅マフラーをしたままの
初夢は餃子の皮に包まれて
初電話ありとあらゆる関西弁
珍しく妻逃げ出さず初写真
正月を返上しての口内炎
宝船餃子は渡る日本海


2 comments:

澤田和弥 さんのコメント...

「餃子」を中心に50句というストーリーが展開されていて、素直な標題だと思いました。家族のほのぼのとした光景に好感を持ちました。餃子よりも、私には

鯛焼の表の顔と裏の顔

が一番印象に残りました。それはまるで千円札の野口英世の顔右半分と、左半分が全く違うように、鯛焼にもそのような濃い陰影を想像しました。とてもユニークな句だと思います。

津野 利行 さんのコメント...

澤田さん、コメントありがとうございました!澤田さんからコメントいただけてとてもうれしいです。
鯛焼の句、私も気に入っている句でして、この句の印象が残ってくれたとのことも合わせて大変うれしく思っております。
頂いた句集のお返事も早くと思っておりましたが、夏以降ばたばたしておりましてこの場を借りましてお礼とお詫びも申し上げさせていただくことをお許しください。お会いする機会がありましたらその節はよろしくお願いします。
コメントへのお礼も遅くなりましてすいませんでした。