林田紀音夫全句集拾読 290
野口 裕
幻燈の火器まだ生きて陸を行く
平成四年、未発表句。古いスライド映写機があったのだろう。通電するとまだ生きている。スライド映写機は旧型であればあるほど尋常でない熱を発する。それが火器という言い方を誘発し、火器が兵器を連想させ従軍体験と結びつくことで「陸を行く」がまた誘発される。
「まだ」や、「行く」という言葉が十分推敲されず使われている印象があるが、それが返って紀音夫の発想の原型を見せる。もちろん、第一句集に比べて評判にはならなかった第二句集『幻燈』、に対する思いもそこには付与されている。
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眼帯のわが身を超えてカンナの丈
平成四年、未発表句。見られている物が見ている者を圧倒する。しかもその視力には陰りがある。「鶏たちにカンナは見えぬかもしれぬ」(渡辺白泉)を思い浮かべれば、皮肉な事態ということになろう。
燕去ぬ空を徐行の飛行船
平成四年、未発表句。遅速、大小の対比。作者から見てどちらも理想の対象となり得るが、はたしてわが身は、というところか。
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月明の影いつよりか骨の音
平成四年、未発表句。読み進めているうちに、出現頻度の落ちている言葉のひとつが月明。第一句集の時代にはよく出ていた。骨の音が月明の使用頻度が減少した理由を余すところなく説明している。ユーモラスではあるが悲痛でもある。
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2013-11-10
林田紀音夫全句集拾読 290 野口 裕
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