【句集を読む】
ショルダーバッグの中に
高橋龍句集『十余二(とよふた)』
谷口慎也
『連衆』第66号(2013年9月)より転載
大切な句集はいつも手の届く処に並べている。ところが高橋自ら「句控」と呼ぶ既刊句集『天津桃』『四十集』は私の布製のショルダーバッグの中にある。小さくて持ち運びに便利であるから、ばかりではない。外出時のちょっとした時間にそれを手にすると「笑える」からである。笑えれば、それだけ時間が豊かになる。というわけで、今回の一冊もショルダーバッグ行きになる。誰かに怒られそうだが、世の中、漫画本より笑える句集が不足しているのだ。
元日や死神未だ坐(ま)しまさず 高橋龍(以下同)
平和村字戦争に梅の花
本文はあとがきのため囀れる
太陽がいくつも落ちる蝉の穴
夢の世のあかざの杖は折れやすし
少年の次は没年夏の海
あきかぜにおくれて吹くは秋の風
一本が二本に見える枯木かな
恥部局部陰部あらはの牡蠣を焼く
神が死んだを繰返す大根引
まだまだあるが、総じて言えば、高橋龍はあらゆる「思想性」をたちまち面白い言葉にしてしまう名人であろう。念のために言えば「面白い」とは詩的快感のこと。集中における【戦中回想】の章や【古事記歳時記】の前書き等を見れば、この作者の思いの深さがわかるが、そこを〈陛下そりやつれなかろうぜ地虫鳴く〉とくる。いっぺん言ってみたかった、と思うのである。ちなみに「十余二」とは千葉県東葛飾郡にある地名のこと。彼にとって、思い入れのある場所であるようだ。
■高橋龍句集『十余二』(2013年7月/高橋人形舎)
0 comments:
コメントを投稿