山口優夢 春を呼ぶ
建国記念日のてのひらいつぱいの胎動
臨月やまぶしくて見えない雲雀
妊娠はかくれんぼかもふきのたう
破水して愚かに眠き春の空
薄氷をぴしと踏みゆき父となる
がつしりと分娩台や百千鳥
雪割草なし崩しに始まるお産
心音が機械にこだましておぼろ
陣痛の息の切なし春ともし
陣痛は大気圏突入のやうだ春
扉の向かうで妻が苦しむ冴え返る
産むときの妻は赤子のやうに赤し
産道を抜けて光を君は知る
人の中から人が出てくるかぎろひて
頭だけ出て泣き初むる蜃気楼
うららかに海から上がるやうに生まれ
今産みし子を呆然と見て春暁
胎盤のしんと重たき春の雪
産みしのち子宮は春の闇に戻る
生まれたての手足伸ばして曲げて春
君に子宮は狭かつたのか春の空
料峭や二重まぶたをもて生まる
がむしやらに生まれて春を呼ぶ子かな
授乳室に我は入れず暮れかぬる
笑はざる子を清潔な春と思ふ
さへづりや傾き変へて哺乳瓶
啓蟄や息を切らせて飲むミルク
激しく抱けぬうちは赤子や桜貝
乳飲み子に日永のげつぷさせてやる
何もしない夫と言はれ朝寝かな
目借時子は胎内の夢を見る
はくれんを見上げこの世をまぶしがる
母の乳探し陽炎に手を伸ばす
遅き日を上目遣ひに乳飲めり
乳をやる妻早春をうつむきぬ
乳首からくちをはなさぬ春の宵
我も母になりたし春風に子を抱いて
乳を飲む子を見て眠きぼたん雪
遠雪崩赤子を布にくるむとき
山に雪きびしく残る夜泣きかな
出生届に春の灯をこぼしけり
取り替へしむつきは蛙より重く
眉間に皺寄せて赤子や梨の花
「ムーンライト伝説」が子守歌なり桃の花
むつき汚して赤子の太る雛祭
春光や咳き込みながら子は泣いて
泣く子を抱いて泣かない母やつばくらめ
父も娘も初恋から遠くてすみれ
春の日にあやされてゐるおまへかな
赤子の目いつも真夜中梅匂ふ
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2014-03-02
10句作品テキスト 山口優夢 春を呼ぶ
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