自由律俳句を読む 64 久光良一〔2〕
馬場古戸暢
前回に引き続き、久光良一句を鑑賞する。
老いの果ての風景に母をあずけて帰る 久光良一
「老いの果ての風景」とは、老人ホームのことだろうか。この句にはどうしてもネガティブなイメージがつきまとうが、それが氏の実感なのである。
うかうかと春の石につまずく 同
実に春らしい句。うかうかとつまずくに、春ほど適した季節はあるまい。
こわれた母が唄う遠い日のいくさうた 同
「こわれた母」という表現が直球に過ぎて、かえって突き刺さる。「老いの果ての風景」で、遠い日にきいたいくさうたが流れ続ける。
無口の男のもうしゃべれなくなった死に顔 同
前回に「黙っていた口が黙って酒を飲んだ」の句を取り上げたが、まさか同一人物だろうか。無口な男なりにまだまだしゃべりたいことがあったのか、それとも十分にしゃべっていてなお周囲からは無口な男と思われていたのか。答えはもはや誰にもわからない。
みんな違っていたはずの目刺の一列 同
魚にも個体差はあろうが、死んで干されて並べられれば、人間様には区別できようもない。寂しくもあり、滑稽でもある句。
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