10 徒然 工藤定治
ユーカリの幹白々と秋澄めり
秋冷をただよう雲の飛行船
今はもう誰も採らざる棗の実
葡萄棚パイプオルガンの音聞こゆ
ぼうぼうと唐黍立ちてすがれけり
ビル灯りモザイクにつく神無月
暮の秋何を勝負のじゃんけんぽん
明るすぎるビルの間に冬の月
息白し学習塾の車待ち
薄紅をひきて冬日の沈みゆく
木曽川の土手を枯草続きけり
朝以前寒を引き連れ電車席
抽斗に冬の日を入れてしまつた
寒空が静止している潦
通帳の印字確かめ冬賞与
白鳥と鴉会談お堀端
寒椿酒屋一軒閉店す
霜柱あとかたもなく崩れけり
黒コートエスカレーター乗り停まる
毛糸玉こんがらがつたままそのまま
年の暮吊り輪を握る手に力
寒昴次々人の替わりたる
空きビルの落書き消えず越年す
太陽光パネル冬日は地に未達
雪が降るどこへも行かず家にいる
雪合戦混戦したる放物線
寒日和坊主頭の手術跡
足腰にカイロを入れて春立ちぬ
霞立ち天のぼりゆく春の水
名古屋まで北海道展は春下る
腕まくりラーメン食べる春着の娘
黄水仙色鮮やかに独りなり
春の山頂に城さらに天
駅渡るむこうに臥龍桜かな
花びらの飛距離を競い春の風
落椿道敷き詰めて容無し
飛び出せず川に一列鯉のぼり
髪染めし無敵の娘風光る
走り梅雨コンビニの傘よく売れる
玄関に残されている蛇の衣
苺の実ぐるりと種の取り巻ける
蛞蝓誉められる事なかりけり
破れ網じつとしたまま蜘蛛がいる
クレーン車の並び指したる夏の空
太陽の光を浴びて裸なり
街宣車角を曲がりし大暑かな
背泳ぎすなすにまかせぬ大金魚
寝転んで水平線のボートかな
知らぬ人通りて行きぬ夕端居
十薬の白きをあとに蔭を出る
2014-11-02
落選展2014_10 徒然 工藤定治_テキスト
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1 comments:
空きビルの落書き消えず越年す
地方都市だと身につまされる描写だ。特に年越しの祝祭感の中、テナント募集中の落書きシャッターを見るのはなかなかつらいものである。
寒日和坊主頭の手術跡
寒い日に坊主頭をさらすのは、いかにも冷える。帽子もかぶっていないのは、お坊さんだろうか? 僧の手術跡というものは浮世を痛感させるものですね。
蛞蝓誉められる事なかりけり
たしかに蛞蝓は誉められることがない。殻を持っているだけのかたつむりだとがらっと事情が変わるのはまったくどういうことか。
生活感をぐさっとつらぬく句がある。やや散文的なので、リズムや韻を工夫したら面白いように思う。
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