2 こゑ 生駒大祐
夏雨のあかるさが木に行き渡る
渦の影立ち上りたる泉かな
人呼ばふやうに木を呼ぶ涼しさよ
風鈴の短冊に川流れをり
薔薇の枝の夥しさを座して見る
初夏の口笛で呼ぶ言葉たち
蛭あまたもみあふひとつごころかな
こゑと手といづれやさしき冰水
夏の木のたふれし日差ありにけり
しとやかにあやめの水の古りゆけり
雲甘く嶺を隠しぬ蝸牛
べつとりとあぢさゐ朽ちし茎の色
白鷺の数とほく鳴きかはしけり
真桑瓜みづのかたちをしてゐたり
水鶏見るもはや心のうすみどり
滝殿を覗き込む子や連れてゆく
輪の如き一日が過ぎ烏瓜
色町の音流れゆく秋の川
晴ながら雲の分厚き家居かな
おそろしく真直ぐ秋の日が昇る
絹漉の暗闇にして菌山
製図室ひねもす秋の線引かる
秋草の鞍馬へ取つてかへしけり
抜く釘のおもはぬ若さ雁渡る
木犀の錆び急ぐ夜を何とせむ
鳥のやうに生きて林檎のしぼりみづ
汝と行かむ月のひかりの涸れしかば
ゆふぐれや芦刈りつつも鳩のこゑ
バス寒く窓ごとの青凡そ空
寒林をとほく治めて天さびし
針山の肌の花柄山眠る
ものうげに寒鯉匂ひはじめたり
汝寝ねて夜どほし冬の空があり
降る雪やただ重たさの肥後守
世の中や歩けば蕪とすれちがふ
枯園や音の向かうに落つる水
冬木中一年が身を起こしけり
山茶花に真白き布の被せある
春を待つ水が絵となるときの色
定まりし言葉動かず桜貝
今はなき通草葛もあたたかし
くらがりにゐて鶯を飼ひならす
のぞまれて橋となる木々春のくれ
広がりし桜の枝の届く水
うたごゑの聞こえてとほき彼岸かな
唐代の墨飛び立たばつばくらめ
差し入れて硯濯ぎぬ春の水
我よりも我がこゑ聡しかすみさう
俯せに水は流れて鳥曇
富士低くたやすく春日あたりけり
2014-11-02
落選展2014_2 こゑ 生駒大祐_テキスト
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1 comments:
色町の音流れゆく秋の川
色町には華やかな光と猥雑な音があふれている。敢えて視覚ではなく聴覚でとらえ、これを浄化するような秋の川を合わせる。高瀬川の風情。
製図室ひねもす秋の線引かる
製図室でいくども試行錯誤される、線と線。清澄な秋の空気の中、人間の仕事は淡々と続く。
定まりし言葉動かず桜貝
簡単に波にさらわれてしまう桜貝だが、いくら砂や泥にもまれても鮮やかな色は動かず、生命力は強い。脆弱に見える詩の中にも信念がある。
現在の写生中心の流れに正面から取り組んでいる。「定まりし」には、その果てに言葉の奥義があると信ずる姿勢がみえるが、そうあえて詠んでしまう ところに葛藤があるようにも感じられる。
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