2015-06-07

【句集を読む】うんこ讃頌 北大路翼『天使の涎』を読む 喪字男

【句集を読む】
うんこ讃頌
北大路翼『天使の涎』を読む


喪字男



北大路翼の句集「天使の涎」を読んで、まず頭に浮かんだことはパンクロックのことだった。
身 体に安全ピンを差したり、薬物を摂取して暴れたりというイメージが強いパンクロックであるが、その一番の功績は、ロックを民衆へ取り戻したことにある。七 十年代のロックは高度な技術と複雑な曲展開で肥大化の一途を辿り、もはや若者のものではなくなっていた。そこへシンプルな曲と刺激的な振る舞いで殴り込み をかけ、風穴をあけたのがパンクロックである。

パンクロックは多くの若者に楽器を買わせた。それはパンクロックが自分たちの音楽だったからである。
北大路翼は多くの若者に歳時記を買わせる。それは北大路俳句が自分たちの俳句だからである。

「天使の涎」は、俳句のことなど全く知らない人に読んであげても、笑いという反応がおきる。それは例えばこんな句である。

こんにちはスケベな花咲爺だよ  北大路翼(以下同)
ちんぽこにシャワーをあてるほど暇だ
団栗やごろごろとゐる鬱の人
七五三違ふ家族のカメラにも


俳句のことを知らない人が反応する句集が何冊あるだろう?
たいていは
「?」
もしくは
「今、忙しいんで・・・」
「ちょっと何言ってるかわかんない・・・」
こ れは何が原因で起こってるいるかというと、エンターテイメント性の欠如からくるんだと思う。そりゃあ、切れや季語という俳句特有のお約束があってそれを知 らない人には「?」となるのに違いない。でも、それいいのだろうか?俳句とはそんな程度のもんなのか?僕たちは軌道をそれた人工衛星なのか?

そこへピンクのシャツに下駄履きの北大路翼がやってきてこう言う。
「俳句はもっとギラギラしたものだ」

「つかみ」、まず人の目を惹く、振り向かせる。これは何かをやってる人にとっては一番大事なことで、「つかみ」が成功してはじめて、お話になるのである。先ほど挙げた句と同じページにはこんな句が載っている。

はなびらのひるがへるとき空のいろ
夕焼に消えるママチャリベル鳴らし
地下道で眠る神様神無月
孤独死のきちんと畳んである毛布


僕の調査のよれば、多くの人がここで息を大きく吐いて「いいねぇ」と言う。こういう芸当はなかなかできるものではない。
恐らくこれは彼が人に揉まれて獲得したものなのだろう。
文学ヲタク達は書を捨てないし街にも出ない。寺山修二だって頭を抱えているんじゃないだろうか。「あんだけ言ったのに!」って。
文学ヲタク達が抽象的なことばっかり言ってホワホワしてる間に、彼は歌舞伎町で女に捨てられながら酒に溺れながら性病にかかりながら借金を踏み倒しながらひたすら俳句を作り続けたのである。

彼の俳句は友達の悪ふざけのように優しい。

肉まんのやうなうんこを霧におく

……うんこはまさに<うんこ>であるが、<そのうんこ>ではない。
一メートル先も見えない霧の中に、こんもりと湯気の立つうんこがおかれてある。
それは「出た」のではなく確かな意志を持って「おかれた」のである。
意図はまったくわからないが、なんだかとても人間臭い行動だと思う。
この酒臭い天使はそういうものを愛してやまないのだろう。



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