炎帝よなべて地獄は事も無し 竹岡一郎
死者の僕による死者のための九段の梅雨
辻の血を吸つて躑躅が咲く今後
僕の巴里祭ツナ缶開ける音だけして
光速を超えて他生へ未生へ灼け
耳目から戦火したたらぬ日は無し
餓死ありと朝焼の鳩鳴き止まぬ
俯瞰して郷(くに)は潰瘍たり溽暑
友訪へば人の背丈の蛭しなび
鳩は嘴開け蟷螂まさに生れ零れ
自傷あまたの四肢暮れなづむ学校プール
花火あふぐ顔融け合ふや無辜なるや
ひもじいと沼が光るよ祭あと
玉虫のめをといとなむいろくづし
割腹のあとのうつろも夕焼くる
大陸が海を埋め立てつつ焦げる
夢助を煽りて蟹は侵攻中
昼寝して知らぬ赤子が這ひまはる
氷河ほど乳房張りつめるとき微音
革命以来肩甲骨に鰓ひらく
瞳孔に蠍座秘すが政治犯
水漬く鞄がとめどなく産む舟虫
蠱毒無上揚羽玉虫壺に詰め
新大陸よりさばえなす雲ふたたび
孕めよ空母、割腹のしたたりに
晩夏ことに睡眠薬の舌に痛し
鱏踏める足(あ)裏(うら)は蓮の刺青咲く
寂静や寝冷子に鬼寄り添へる
木耳の緋にはばたくが谷の儀式
陸続の虹の如きがまとひつく
天へ錆び咲(わら)ふ背骨や玉虫攀ぢ
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2015-07-19
作品30句テキスト 竹岡一郎 炎帝よなべて地獄は事も無し
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