【句集を読む】
トボケてみせる
大島英昭『花はこべ』の一句
西原天気
朝涼や腹に食欲らしきもの 大島英昭
秋の訪れと食欲の到来の結びつきは至極順当。そして寝起きの空腹も、身に覚えがある。
そうした既知の順当な組み合わせが、一句の中でどのように設えられているのか。それもまた俳句の要点のひとつ。
この句の場合は、「らしきもの」でトボケてみせたところが趣向。
自分の腹なのに断定できず「らしきもの」と頼りないところが、なんとも可笑しく、好ましい。
「飢え」では湿っぽく含意過多。「空腹」がいい。
ところで、この「空腹らしき」という不明には、実感があります。若い頃は違いますが(しじゅう腹をすかしている)、年をとると、腹のあたりに感じるコレ(一種の空虚)を空腹と断定しきれないのですよ。
掲句は大島英昭句集『花はこべ』(2015年5月/ウエップ)より。
集中より気ままに。
春雨のいつしか音を立つるほど 大島英昭
ゑのころの没り日の中に透きとほる 同
冬草の光るを土手に踏みにけり 同
雪渓に浮き雲のかげ落ちにけり 同
四阿に昼寝の人がゐて真昼 同
何気なく、やわらかな景。どこかで見たことのあるような気になる景。悦ばしいものを思い出させてくれるような句(リマインダー機能をもった句)が多い。
最後に、いちばん好きだった句。
焚き火する人に郵便届きけり 同
2015-09-20
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