2015-11-01

2015角川俳句賞落選展 20 高梨 章「明るい部屋」テキスト

20. 高梨 章 「明るい部屋」

炎天やみるみる泣くぞ泣くぞ泣く
春の月ぐいとキヤベツの葉を剥がす
飯食ひながら夕焼のことばかり
夏つばめ影一瞬に影の中
蝿がきてそのまま奥に消えにけり
夜濯や母の手くびの輪ゴム跡
夕焼にさはつたことがあるといふ
あれは母ではなく冬の夕焼
母からこぼるるこなごなの枯葉よ
手袋をはめた手で雨の音を聴く
山茶花や坂道おほき町にすみ
床下に夕焼さはぐと母のいふ
がまぐちの口金ゆるし緑の夜
目刺くふ子もくはぬ子もきて坐る
キャベツに醤油をかけてしまひけり
少年の影自転車の影五月
てのひらを夏のざわめき過ぎりけり
靴先を内側に向けしやぼん玉
しやぼん玉しばらく消えず消えにけり
初嵐けさも右足先に出す
靴下をはき靴をはき初氷
いつまでも石蹴るあそび冬銀河
空き箱をかかへて春の微熱かな
ずるいなあと母のつぶやく春の山
雨の日を昼寝してゐる漂流記
夏鳥の孤独もつパンタグラフかな
青年の団扇をゆるくうごかしぬ
透明度増してゆく母みどりふかし
昼顔をひとつ取つてくれないか
立ちどまるのが好き白い夏帽子
一気にファスナーひきおろすやうに鵙啼けり
そこここに団栗ならばそこここに
うろこぐもうまくつまめぬオブラート
どこに置く檪の林に母を置く
山の名もわからぬままに冬の山
大さむ小さむ音なく数行削除
冬支度ぼくらは夜毎めをつむる
豆電球も気泡のひとつ長き夜 
口あけてはるばる春のしじみ汁
早春のすべては水の音といふ
梅が香やガスのほのほを細くする
三月は木蔭のやうに来てゐたり
水を飲む母はせせらぎ南風
鳥帰る屑籠に屑しづかなり
島も見えず鳥も見えず母ねむる
ねむりにも水位あるらし冬の波
三月に目ざめつぶやくまだ朝か
春休み玩具の汽車が離陸する
大南風港と港つなぐ線
透明な夏のいちにち非常口



■高梨章 たかなし・あきら
昭和二十二年一月一日生まれ。大学非常勤講師。俳句歴六年。所属結社なし。 

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