【句集を読む】
なつかしい映画
柏柳明子句集『揮発』の一句
西原天気
いまの映画館は椅子は快適だし観客席に勾配がついているので前の人の頭が気になることもありません。ただ、いくつか疑問があります。上映の前に延々と流れる予告、さらには観る際のマナー説明。いつまで経っても本篇が始まらない。それから、十数人しかいないのに「指定席」。
昔話をすると嫌われますが、私が十代の頃は、映画の途中から観るのは当たり前。禁煙じゃなかった時代はさすがに知りませんが、こんなじゃなかったです。それと、大きな違いはロードショーでも2本立てが多かったこと。怪獣映画と美空ひばりの股旅モノとか、ディズニーはアニメと実写(ふつうに人が出てくる映画ってことです)。名画座は2本どころか3本もあった。さらには朝まで4~5本という「映画祭」も。
いつもまにか、映画は1本がふつう。ガラガラの上映でも「指定席」。どちらがいいということではなく、ずいぶんと変わりました。
かはほりや三本立ての映画館 柏柳明子
いまはもうないのかもしれない、懐かしい映画館です。
「かはほり(蝙蝠)」は、どうでしょう?
唐突な季語にも見えますが、夕刻、仕事を終えて映画を観に、というとき、木造の映画館の軒先から、蝙蝠が飛んでも、不思議ではありません。
それに、蝙蝠は、昔から、映画のなかで(物語のなかで)、なにかが起こることのサインみたいなものです(多くはホラー、あるいはホラータッチのコメディ)。ある種の映画の、物語の核に向かうとき、その途中に、蝙蝠が飛ぶ。
でも、待てよ、そんな映画、蝙蝠が、何かの前触れになるような映画は、やはり、懐かしい部類の映画なのでした。
『揮発』(2015年9月/現代俳句協会)の版元「現代俳句協会」のサイト
≫http://www.gendaihaiku.gr.jp/publication/fresh/
2015-12-20
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