2016-03-20

和田悟朗追悼歌仙「ひとときの」の巻 企画発案者から 堀本 吟

メッセージ
和田悟朗追悼歌仙「ひとときの」の巻 企画発案者から

堀本 吟


★この歌仙は、二〇一五年三月七日起首三月二十三日満尾。企画というような大げさなものではありませんが、私、銀河と三島ゆかりさんが声をかけて集まってくださった方全九 人(捌・三島ゆかり)が参加。二〇一五年二月二十三日に逝去された和田悟朗先生への追悼のおもいをもって発された一巻です。快く賛同してくださった方そして捌きを引き受けてくださった三島ゆかりさんに感謝申し上げます。

ゆかりさんが、もっと早めに、この「週刊俳句」という大きな場所に発表したいお気持ちはわかっていましたが、元「風来」の同人たちなど身近な関係者の沈みきった思いに添っていたい気持ちもあり、しばらくは連句仲間の内輪だけのひっそりした鑑賞の形にしていただきました。私にとっては、このような形で他者に想像力を預けることで、一種の自己客観化が可能になり、俳句と連句の表現のなかで和田悟朗俳句の広がりやこれから自分が何をしたらいいか、ということについてゆっくり考える期間を得て、この休養期間のわがままを許していただいたおかげで、立ち直りもやや早くなったようです。

そして、先日一周忌二月二十三日も過ぎ、三月二日からは、東大寺二月堂では、今年も恒例の行事「十一面悔過法」(修二会)がはじまりました。三月十二日深夜にその最大の山場「お水取り」の行事がありました。それが区切りにもなるので、ここでゆかりさんとのお約束を果たすことにします。 

★発句は、私が所属していた「風来」(代表同人和田悟朗・2010年5月〜15年3月)、その最後の二十号に新作として発表された《太古のひととき》十句中の一句(俳句界三月号掲載特別作品二十一句にも掲載されている)、同人であった私が知りうるもっとも新しい作の一つで、既存の句集には収録されていません。が、いかにも和田悟朗らしいつくりです。

★和田悟朗(敬称略)は、俳句のはじめを俳諧旧派の宗匠でもある橋閒石に師事、その主宰誌「白燕」に入会、ついで高柳重信の「俳句評論」、赤尾兜子の「渦」、の主要メンバーとし戦後俳句の波をくぐりました。最初の師である橋閒石の死後「白燕」を受け継ぎ、「白燕」の終刊後俳句誌「風来」を立ち上げられ、いろんなご縁から私もその創刊同人に加わりました。五年後の現在、逝去後の「風来」は終刊となっています。

もう少し詳しく説明しておきますと、橋閒石の「白燕」(1949年創刊、57年主宰誌から同人誌に改組、92年より和田悟朗代表、2009年6月終刊)は、「連句、俳句、随筆」という三本の柱を掲げていました。しかし、「白燕連句会」の講話や指導については、は、悟朗は、「多忙とたびたびの発病のためにほとんど出席していない。/それだけにこの『余談』は、わたしにとって新鮮で貴重だ」(和田悟朗編・橋閒石随筆集『俳諧余談』(2009年3月発行のあとがき)、と記しています。そして新たな「風来」は純然たる俳句と随筆の場でありました。時には連句の座にもくわわっておられたと聞いていますが、私が接した時期、俳誌「風来」に連句が欠けていたことを私は少し残念に思っていました。そして、その悟朗の俳句のいくつかの中にも、予想外にも連句の付けが叶いそうな広がりのあることが、私に新たな興味をかきたてました。

たとえば、句集の中に

  美しき猫を捨て来し帰り途
        句集『少閒』(一九九三年・沖積舎)

という無季句があります。もちろんこれ一句は俳句としてのこされているのですが、表六句がおわり裏に入って恋の呼び出しにぴったり、いや恋の座といってもいいたいような軽い華やかな味わいがあります。前に別世界の物語があり、それを承けそこからぬけだして新しい世界にはいってゆく付け合いともなりそうな「転移の途中」を感じさせます。時間や空間、宇宙にかかわる荘重なみごとな一句屹立の境地を示される方はこのような世界ももっておられる。悟朗俳句は、実は、読むたびに新しい顔が見えてくるのです。追悼一句もさることながら、故人をしり、またその句集に触れた何人かが集い、偲ぶ思いを歌仙に集約することもこのユニークな俳人を惜しみ理解しようとする気持ちのひとつのあらわし方ではないか、とそのとき思ったのです。

★この「ひととき」の巻は、敬愛する和田悟朗先生の死=不在という事態が引き出したとはいえ、ご存命中にはありえなかったろうバラエティ豊かな顔ぶれと波乱ある付け合い、最後は格調高い大団円=この収まり方にも、捌きの誘導にしたがって連衆として歌仙を巻きつつ私は舌を巻いたのです。

連衆の個性が捉える様々な要素をうまくとりこんで捌き、満尾後にはわかりやすく評釈して下さった三島ゆかりさんの捌きもさすが当を得たものです。

本編はかようないきさつを経ております。大変ありがたい機会でした。どうぞ皆さん、ともにこれを機会に俳句表現者として「和田悟朗」の仕事をひろく知っていただきたいと思います。

       *     *     *

故人の経歴紹介については、市販の句集やネット検索でご覧ください。
なお、ゆかりさんの評釈に、『風車』(平成二十四年三月二十五日・角川書店)を最後の句集とありますが、読売文学賞を受けたこれは、その時点で最後の第十句集でしたが、その後刊行された、『和田悟朗全句集』(久保純夫・藤川游子編輯/二〇一五年六月十八日・飯塚書店)に新句集として『疾走』があらたに収録されています。

なお、参加者「ゆかり 銀河 ななふし 媚庵 なむ 苑を 由季 裕 令」による展開のさまや詳しいやりとりは、ゆかりさんの掲示板でご覧になれます。(二〇一六年三月十六日 銀河こと堀本 吟)

0 comments: