【八田木枯の一句】
母の木は北へなびくぞ風の旬
田中惣一郎
南風の季節とはいえ、当り前ながら風はいつも同じ方向へ吹くものではなく、雨ほどにはその風景もあからさまではないから、言われなければ風のよく吹く向きが季節と関係があるということなど少しも考えなくてもおかしくはない。南風とは南から吹く風である。
母の木は北へなびくぞ風の旬 八田木枯
『於母影帖』(1995)所収。北の反対は南なので、風によって北のほうへ押されているのならば吹いているのは南からだとわかる。風になびくような木は大きな木だろうし、大きな木があるところならば空も広くてよく風が通ることだろう。
寒い季節の風は、風そのものよりもその寒さに気がいくし、だから春風も風が寒くないことに春らしさがある。夏の風も涼しさと結びつきはするものの、そのつながりは寒さと風の関係に比べれば風が主なのではないかと思われる。風を風として感じられる、「風の旬」とはそのあたりの謂だろうか。
いったい南風という言葉を展開して作られたような知性の句なのだけれど、「母の木」という名付けに知性だけでは回収されない意識の層がねじ込まれている。
2016-05-29
【八田木枯の一句】母の木は北へなびくぞ風の旬 田中惣一郎
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