【みみず・ぶっくすBOOKS】第8回
ライアン・マコム『ゾンビ俳句』
小津夜景
先週はモーリス・コヨー、別名「紅葉モリス」のフリーダムな学術書を取り上げたが、あの本を発見してしみじみ悟ったのは「古本屋の方がふつうの書店よりずっと掘り出し物がある(しかも安い)」ということ。今までそれに気づかなかった自分に呆れつつ、あの日は興奮して10冊近い古本を購入してしまった。
その折、英語の本も2冊入手。というのもこの企画、そもそもの発端が「フランスの片田舎の本屋でどのくらい俳句と出会えるのか」といった趣旨であり、使用言語に関しては特に縛りがなかったことを思い出したからだ。それに加えて実はこれらの本、いずれも出版当時話題になり、ぜひ実物を見てみたかった物でもあった。
キャプチャー向かって左側の男性がお勤め(詩の朗読)中のライアンさん。ゾンビ目線で言って、たいへん程よい血色のご尊顔である。また朗読とサックスとの掛け合いは割によくあるスタイルだが、彼らのそれはジャック・ケルアックによるポエトリー・リーディングの名盤「BLUES
AND HAIKUS」のパロディみたいでとても新鮮。さすがは「シンシナティ大学在学中に俳句病に罹患し、そこから15年間にわたって俳誌を運営した挙句、今では24時間365日、世界のあらゆる事象を5-7-5音節構造で思考するまでに至りました」と自著インタヴューで語る御仁ならではの演出だ。
本文138頁。2€=250円で購入(元はUS9,99$)。 |
表紙をめくると、いきなり薄汚いゴミが。思わず「うっ」と手を引っ込めてしまう。実はこれ印刷でなく、本物の埃をわざわざ貼り付けてあるのだ。さすがに他のページの汚れはナマモノではなく印刷だったが(よかった…)なかなか凝ったアート・ワークである。ライアンさんにはこの『ゾンビ俳句』以外にも『ドーン・オブ・ザ・デッド俳句』『ヴァンパイア俳句』『狼男俳句』などの著作があって、いずれも友人たちの出演・加工などの協力を得ながら制作しているのだそう。
この句集は一人の青年がゾンビとなるまでの
日記という形式で書かれている。
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ソンビにはポラロイドやテーピングがよく似合う。 |
ソンビにはスパゲッティもお似合い。 |
ゾンビスマイル。 |
ライアンさんは《ゾンビ的なもの》にまつわる典型的な視覚表現にたいへん精通しており、特に強烈な写生句がお好みのようす。実際インタヴューでも「コンセプトよりアクチュアリティを重視している」と述べ、たまに「詩には《解くべき謎》を混乱させるといった愛すべき特徴がある」と、なんとも知的なことを仰ったりもする。
世をしのぶ仮の姿のライアン氏と、
ゾンビであることを
隠しきれていないお友達。
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また彼の句のほかの特色としては、5-7-5の17音節を律儀に遵守していることがあげられる(この点、パンキッシュな内容を良い意味で裏切って興味深い)。以下に少しだけ試訳してみたが、上手く行ったともあまり思えないので、最後の一句についてはキテレツ古書店「どどいつ文庫」のサイトから店主の試訳をお借りしてきた。
Smelling the same meal,
another one of us joins me
Into the darknesse.
同じ肉嗅いで友なり闇へ入る
The other dead guy
stares at me with a blank look
As we softly moan.
白目野郎のわれを見つめる呻きかな
Looking at my hand,
Somehow I lost a finger
and gained some maggots.
じっと手をみる 指の代わりに蛆生えて
I need to slow down.
It’s hard, when eating
finger,
to tell whose hand’s whose.
どの指がだれとも言えず食うカオス
Brains, BRAINS, BRains, brains, BRAINS.
BRains, brains, Brains, BRAINS, Brains, brains,
BRAINS.
BRAINS, Brains, brains, BRAINS, brains.
脳、脳、脳、脳、脳。
脳、脳、脳、脳、脳、脳、脳。
脳、脳、脳、脳、脳。
Bitting into heads
In much harder that it looks.
The skull is feisty.
オツムがぶっ、ドタマの骨は手ゴワイよ
《参考》
ジャック・ケルアック「BLEUS AND
HAIKUS」。
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