『連衆』第72号(2015年10月)より転載
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かの夏を想へ 西原天気
川のみづ海のみづ夏ゆふべかな
眼底に焼き付けたまへほら菅井きんそつくりに暮れてゆく街
終バスの煌々とあり夏は来ぬ
アート紙にかすかな湿りその一枚一枚に棲む浅丘ルリ子
虻は宙に停まれり蓮の真上なる
季語として五月みどりの遍在をつくづく思ふ蒲田駅前
クーラーのリボンへろへろ純喫茶
あぢさゐに囲まれてゐるあぢさゐのさなかに眠れ徳川夢声
戦争と三愛ビルの水着かな
四角くて丸い世界の中心に馬場正平がゐた熱帯夜
始発まで寸時のねむり水中花
ならばカギ括弧に入れて「トニー谷」さあ革命の準備はできた
蘭鋳の正面といふ奇妙な町
茅場町あたりのビルのそのうへを反重力の清川虹子
ゆく夏を時計廻りに秒針は
牛乳を飲み干せどなほ哀しみのいや増す笠置シヅ子はいづこ
たはむれのプールの底で目をひらく
谷啓を永久の課長と思ふべしオフィスに並ぶデルのパソコン
わが未来つひに輝くことなし蚊
その場合まさか桜井浩子などゐるはずもない夜明けの日比谷
はつあきのちいさく雨の降る日かな
かの夏を想へば菅井きん状のものが記憶の襞に滲み出す
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