2016-07-17

10句作品 かの夏を想へ 西原天気


『連衆』第72号(2015年10月)より転載

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かの夏を想へ 西原天気 

川のみづ海のみづ夏ゆふべかな

眼底に焼き付けたまへほら菅井きんそつくりに暮れてゆく街

終バスの煌々とあり夏は来ぬ

アート紙にかすかな湿りその一枚一枚に棲む浅丘ルリ子

虻は宙に停まれり蓮の真上なる

季語として五月みどりの遍在をつくづく思ふ蒲田駅前

クーラーのリボンへろへろ純喫茶

あぢさゐに囲まれてゐるあぢさゐのさなかに眠れ徳川夢声

戦争と三愛ビルの水着かな

四角くて丸い世界の中心に馬場正平がゐた熱帯夜

始発まで寸時のねむり水中花

ならばカギ括弧に入れて「トニー谷」さあ革命の準備はできた

蘭鋳の正面といふ奇妙な町

茅場町あたりのビルのそのうへを反重力の清川虹子

ゆく夏を時計廻りに秒針は

牛乳を飲み干せどなほ哀しみのいや増す笠置シヅ子はいづこ

たはむれのプールの底で目をひらく

谷啓を永久の課長と思ふべしオフィスに並ぶデルのパソコン

わが未来つひに輝くことなし蚊

その場合まさか桜井浩子などゐるはずもない夜明けの日比谷

はつあきのちいさく雨の降る日かな

かの夏を想へば菅井きん状のものが記憶の襞に滲み出す

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