【八田木枯の一句】
死ぬならば夏いちまいの鏡のうへ
西原天気
死ぬならば夏いちまいの鏡のうへ 八田木枯
『天袋』(1998年)より。
「鏡」は八田木枯が繰り返し、かつ一貫して追い求めたイメージ。第一句集『汗馬楽鈔』(1988年)の《汗の馬芒のなかに鏡なす》から最後の句集『鏡騒』(2010年)の《黒揚羽ゆき過ぎしかば鏡騷》に至るまで。掲句は、そうした経過の中途にある一句。
暑い夏に置かれた鏡一枚の硬質が涼しさを通り越して冷気を感じさせる。人ひとり載せるのだからかなりの大きさで、なおかつ上に向く。姿見など垂直がもっぱらの鏡からからすれば異例のたたずまいが鮮やか。「死ぬならば」といったある種大仰な導入を、美しいスピードで受け止め、瞬時に置き去りにする。
ところで、こんな句を最近知った。
死ぬときはびわこになると思います 本多洋子
川柳誌『おかじょうき』主催の第19回杉野十佐賞を受賞した句。川柳と俳句、ジャンルが違い、筆致が大きく異なるが、水平の鏡と琵琶湖の水面は私の中で親(ちか)しい。
なお、木枯が亡くなったのは3月19日。夏とは行かなかった。
2016-07-24
【八田木枯の一句】死ぬならば夏いちまいの鏡のうへ
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