【句集を読む】
140億年の壮大スケールで描く俳諧的ちまちま世界
マイマイ『宇宙開闢以降』
西原天気
小ぶりの正方形(134mm✕134mm)、本文36頁。この小ささ・薄さが、高い企画性(ひとつのテーマ・いっぽんのストーリー)とよくマッチした句集。言い方を換えれば、えんえん分厚いページ数でやられても困る。そのへんのこと、すなわち読者の腹具合がよく考えられた句集。
(気遣い・心配りは「本のかたち」以外でも随所に見られるのです。そのへん追い追い)
最初のページはプロローグ。「カウントダウン321…」で次のページへ。
インフレーション宇宙一様に淑気 マイマイ
インフレーションで切るのではない。「インフレーション宇宙」。耳慣れないが、だいじょうぶ、脚注(6ポイント、ちっちゃい!)で用語解説がある。
(句集に脚注はそぐわないとおっしゃる方もいそうだが、科学用語の解説に限られているので、違和感がない。俳句はやっぱり「文系」なのだ。「理系」の知識はこうしたかたちで「与えて」もらったほうがいい)
この句集、宇宙誕生から人類誕生あたりまでを俳句で追う趣向。その処理法は、上に掲げた句でもわかるように、きわめて俳句的。宇宙科学的なネタと有季定型の出会い、ってな感じ。
フィクションの質(どの程度、どの方向に虚構的か)に幅がある点も、たぶんになりゆき的ではあろうけれど、美点。
色薄くなる風船の膨らめば 同
は「膨張する宇宙」とからめなくても、風船の(軽妙な)描写として読める。このあたりが虚構度〔低〕。
宇宙背景輻射(おうしゃ)布団を出られない 同
は虚構度〔中〕程度か。
三葉虫石の瞳のみる虹よ 同
は虚構度〔高〕のファンタジー。
さらには、
亀鳴くや大地支ふる大亀も 同
古代インドのコスモロジーにも範囲が及ぶ。
企画モノという言い方はしばしば低評価と結びつく(テレビ番組等のカジュアルな例)。じっさい余興的に終わることも多いが(それでもいいと思うんだけどね、私は)、この『宇宙開闢以降』は、作者が句を楽しんでいるという作者内部の動因と、読者に親切であろうとする作者外部への意思がうまくバランスされて、結果、「おもしろい」というエンターテインメント究極の成果をもたらしている(というと、大げさか。とにかく、おもしろく終えられるのです。100分程度の長すぎない娯楽映画のように)。
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