選句と作者一覧【話】
〔席題【話】の高点句〕
留守番の金魚に話しかけてから 小久保佳世子
◯マリオ◯あほうどり◯石原明◯瀬戸正洋◯菊田一平◯芳野ヒロユキ◯赤野四羽◯青島玄武◯羽田英晴◯西村小市◯青柳飛 ◯彩楓
■ペットシッターとか、お掃除に来た人とかが主のいない家の金魚にまず挨拶、と考えるのが普通だろうが、泥棒さんだったりもするのかな、と、色々想像をかきたてられた。(青柳飛)
■お出かけの際の儀式か。自分に言い聞かせたいことがあるのかも知れない。(西村小市)
■ごめん、ごめん。(羽田英晴)
■出かけたのか、帰ってきたのか。余計なことが書かれていないぶん、想像が膨らむ。一人暮らしの侘しさにほのかな癒し。(青島玄武)
■一人暮らし。犬猫は話しかけると返事をすることもあるが、金魚は難しそうだ。それでも誰かが待っているというのはありがたい。(赤野四羽)
■金魚が魚なのか人なのか猫なのかそれとも他の何かなのか。この金魚のような存在のおかげで頑張れる人がいるのもまた事実であろう。(芳野ヒロユキ)
■金魚好きには納得の一句です(菊田一平)
■金魚だってひとと話すことができるのである。(瀬戸正洋)
■話しかける主体は泥棒と解して読みました。(石原明)
■ありそうな情景だが、その先を何も言ってないので想像が膨らむ。(あほうどり)
■犬猫のように駆け寄ってこないから、ちゃんと謁見しよう(マリオ)
●
「あ」と「う」から始まる会話夏深し 阪野基道
◯竹井紫乙◯芳野ヒロユキ◯青柳飛
■「あ」と「う」が不思議に季語とマッチしているな、とか思ってしまった。(青柳飛)
■「あれからどうなった」「うーん、はんこ絶対押さないって」等、人生の深い話を想像できて面白い。(芳野ヒロユキ)
■「あつい」「うん」しか、もう思いつかない有様。阿吽、なんでしょうけど。他には「蟻だらけ!」「うんざり!」くらいか・・・。(竹井紫乙)
Gペンに童話の挿絵描き涼し 冬魚
アニマルは奇術のような話術です 光明
イグアナとエコの話で盛り上がる 犬山入鹿
◯羽田英晴
■ずいぶん盛り上がりました。(羽田英晴)
かわほりの打ち明け話逆さかな あまね
◯笠井亞子◯怜
■下5が話者の体位とストーリー、両者に作用。(怜)
■バカバカしくて好き。(笠井亞子)
クワガタの話だんだんおおげさに 沖らくだ
◯羽吟◯杉太◯瓦すずめ◯佐藤日田路◯酒井匠◯芳野ヒロユキ◯赤野四羽◯羽田英晴
■クワガタがどんどん大きくなっていく。(羽田英晴)
■クワガタが法螺を吹いているのか、クワガタマニアが風呂敷を広げまくっているのか。どちらにしても面白い景である。(赤野四羽)
■昆虫のクワガタの話なのか、クワガタと称される人物の話なのか、曖昧さと放り投げた感の作り方がいい。(芳野ヒロユキ)
■「ほんとだって、7cmくらい、いや10cmあったんだって!」漢字の少なさと句の内容がハマっていて、一見ゆるそうなのにスキがないと思いました。(酒井匠)
■8センチいや10センチはあった。と、クワガタが巨大化していく。(佐藤日田路)
■自慢話をする子供のわんぱくさ。聞いている親の苦笑も見えます。(瓦すずめ)
■そんなことがよくありますね。熊や蛇よりクワガタの方が大げさにしやすいかも。(杉太)
■なんだか好きです。(羽吟)
ここだけの話デンドロカカリアと なかはられいこ
◯彩楓
サルビアを咲かせてゐたる痴話喧嘩 宮本佳世乃
◯曽根主水◯石田遊起◯鈴木茂雄◯石原明◯沖らくだ◯羽田英晴
■痴話喧嘩のエネルギー貰って。(羽田英晴)
■お互いがなにか言うたび、身体のどこかの部位からサルビアの花がぽっと咲く、そんな漫画チックな場面を思い浮かべて可笑しくなった。サルビアは甘い蜜を吸った思い出があるが、見てくれはあまり可愛くなく、さほど大きくもない花で、なるほど「痴話喧嘩」っぽい。(沖らくだ)
■こんな喧嘩なら大歓迎ですね。(石原明)
■サルビアも咲くだろう、なにしろ痴話喧嘩なんだから。ちなみに花言葉が「尊敬、家族愛」というから皮肉な話。(鈴木茂雄)
■サルビアの花がぽろぽろとこぼれそう。。(石田遊起)
■直観としてこの花なのかなと。サルルルビアもさささ咲く喧嘩だろうなあと。(曽根主水)
しやくとりや別役実童話集 瀬戸正洋
◯うさぎ◯鯨
■「空中ブランコ乗りのキキ」ならば尺取り虫だろう予感。(鯨)
■別役実のちょっと屈折したユーモアにシャクトリムシがぴったりです。(うさぎ)
たわいない女の話アマリリス 中村光声
◯彩楓
なるならばもしもの話だけど枇杷 青木ともじ
◯マリオ◯なかはられいこ◯加納燕◯高橋洋子◯照屋眞理子◯青柳飛
■枇杷になってもいいかな、と思う気持ちがユニーク。(青柳飛)
■構成(言葉の連ね方)の巧みさと楽しさにまず参ってしまった。上手い。さらに、えっ何、と読み進んだ最後に「枇杷」とは、何ともとぼけた落ちが待っていた。とぼけ方、意外性では、今回の特選にしたいくらい。(照屋眞理子)
■枇杷になりたい人って意外と多い。(高橋洋子)
■慎重な言い方の、控えめな願望。でもそう言われてみれば、枇杷になるのはとても素敵なことかも。(加納燕)
■語順はこれでいいのかと思い、この語順だからいいのかとも思います。「枇杷」もそれでいいのかと思い、枇杷だからいいのかとも思います。(なかはられいこ)
■それほど枇杷が好きなら、枇杷になりなさい。止めないよ(マリオ)
ぽつぽつと麦酒の泡の話でも 野口裕
◯杉太◯芳野ヒロユキ
■納涼にふさわしく。酒の席では仕事の話などご法度。目の前の料理の話、まずはとりあえずビールの泡の話から。(芳野ヒロユキ)
■ビールの泡の蘊蓄か、それとも、ちんちんあかの会のような話なのか。どうも、後者のような感じですね。(杉太)
ものがたり蟻が人喰ふ道の端 竹井紫乙
一筋の滝を挿話となせる山 青島玄武
◯かんな◯守屋明俊◯羽田英晴◯青木ともじ
■滝も山の一部なはずなのに、そこだけ特別な違うストーリーのような気がしてしまう、そんな気持ちを挿話と詠んだ表現にとても惹かれた。(青木ともじ)
■さほど大きくない滝。遠景に。(羽田英晴)
■山にとって今流れている一筋の滝はエピソードの一つ。悠久の昔より流転を繰り返している山の堂々たる姿が見える。(守屋明俊)
■「一筋」はひらがな書きが好みですが、「山」が語るとは、句柄が大きい。(かんな)
一枚の湖面になってゆく話 怜
◯なかはられいこ◯青砥和子◯あほうどり◯野口裕◯憲子◯黒田珪◯光明◯彰子◯一実
■フィクションとしての面白味。「なってゆく」に時間の経過を感じて不穏。(一実)
■同じ景色に心を遊ばせている。只それだけが長編小説。(彰子)
■いろいろな話が、湖面の波のようにドラマがあり、一話が1ページとなり綴じられている。(光明)
■何が一枚の湖面となるというのか、なぞかけのような一句。それでも収束する話というのは最終的に一枚の湖面になるようなものなのだろうと、不思議に納得せざるをえない。(黒田珪)
■どんな話なのか想像もつかないが、寡黙な二人を思わせる。(憲子)
■子守歌のように静まってゆく湖。二枚ならややこしい。(野口裕)
■大抵のものは湖面に落ちれば何事もないように湖面になってゆく。哀しく怖い話。(あほうどり)
■「一枚の」でいろいろな景を想像します。凍てついている・・鏡面のようになっている・・。しかも 湖面は 徐々に・・あるいは一瞬で・・「一枚」になる・・その「湖面」には何が見えるのか。何を語るのか。時間も季節も自由に想像をたのしめる。(青砥和子)
■主語はなんなんでしょうね。誰なのか何なのかわからないのですが、凪いだ湖面を想像して、ああ、よかったねえと思ったのでした。(なかはられいこ)
遠雷や老人たちが糸電話 杉太
◯近恵◯青砥和子◯中村遥◯瀬戸正洋◯菊田一平◯小久保佳世子◯Y音絵◯きゅういち◯吉野ふく
■終末を迎えた人々の穏やかで静かな光景。影絵のように浮かぶ。話しているのはたくさんの思い出だろうか。(吉野ふく)
■「遠雷」それはあの戦争のことか?「老人たちが糸電話」はかなしくも恐ろしい画像(きゅういち)
■シュールで不穏で、好きです。「が」の響きが良いと思いました。(Y音絵)
■老人は耳が遠くなる傾向があるので糸電話は成立しないのでは?でもこの句には理不尽な魅力があります。(小久保佳世子)
■これはもう三鬼真っ青(菊田一平)
■寂しく悲しい風景である。他人から見ると、自分もこんなふうに見えるのだろう。(瀬戸正洋)
■老人たちの何組かが糸電話で話している。介護施設のリクレーションか。意思疎通は出来ているのだろうか。遠雷がよく効いている。(中村遥)
■「遠雷」と「老人」の取り合わせが良いです。きっと糸電話の糸はだらりと垂れている・・・(青砥和子)
■光景を想像するとシュールでおかしい(近恵)
夏場所や話してばかりの客のをり 瓦すずめ
海月浮く長い話の終るころ 村田 篠
◯マリオ◯曽根主水◯青砥和子◯かんな◯守屋明俊◯鈴木不意◯村嶋正浩◯瓦すずめ◯石原明
■海月も我慢していたのでしょうね。(石原明)
■窓から海の見える海近くの家を想像しました。延々と話をしていて、ふと窓を見ると海を見える。長い話のふわふわ間の中に海にいる筈のクラゲがやってきそう(瓦すずめ)
■長い話とは、人類の歴史の時間のことに違いない。人類に寿命が来て、そろそろその時期だと囁かれているが、人が絶えて、生き残った海月がゆつくりと浮いてくる平和な地球の季節だ。(村嶋正浩)
■心象風景的な面白さ。「海月浮く」とした上手さ。(鈴木不意)
■人間の「長い話」の時間と、海月の泳ぐ宇宙時間とでも言う気の長い時間とを一緒くたにしたところが面白い。(守屋明俊)
■話が長くて、海月になったのでしょうか。鎮魂も感じられたり。(かんな)
■透きとおった小さな海月を想像しました。長い話が終われば 互いのもやもやが晴れほっと一息入れている。そんな気持ちが海月に表れていると思いました(青砥和子)
■ぽかーん。(曽根主水)
■退屈な話によくつきあってくれました。ありがとう(マリオ)
寓話から出られない太ったカラス 青砥和子
◯瀬戸正洋
■太っていようと痩せていようとカラスは寓話から出ることができない。人間は自分勝手なものだと思う。(瀬戸正洋)
形代や話弾みし一両車 幸市郎
◯怜
■数字一が神がかる。(怜)
紅涙を誘ふ話術や日の盛 鈴木不意
◯石田遊起
■紅涙は楽しい明るい話。日の盛の良さです。(石田遊起)
黒麦酒とにかく話だけ聞こう 青柳 飛
◯ハードエッジ◯瓦すずめ◯照屋眞理子◯芳野ヒロユキ◯林昭太郎◯西村小市 ◯彩楓
■とりあえずビールとは言っても黒麦酒というところにこだわりがある。おおらかな先輩といった感じがした。(西村小市)
■何と言っても「黒麦酒」の力だろう。(林昭太郎)
■なんか重そうな話を想像させる黒ビール。飲みながら話していれば気持ちも軽くなるさ。(芳野ヒロユキ)
■「話だけ聞こう」とは、その後のことは保証してはいないのである。季語が動くかとも思ったが、話を聞く代わりに奢らせるなら、黒麦酒あたりが妥当なのだろうと納得。(照屋眞理子)
■どっしりとした味わいの黒ビールと「とにかく話だけ聞こう」という語り手の力強さが、会っているように思いました。(瓦すずめ)
■信頼の黒(ハードエッジ)
犀ほふる話はも百物語 一実
◯沖らくだ
■「犀」だし「ほふる」だし、「はも」までついたら降参です。ハ行の音の連続の間に表記と音のちがう「は」が入って、音にすると結構な読みづらさながら、句またがりの仕方が音としておもしろい。(沖らくだ)
山車洗ふ神話の御代と同じ川 黒田珪
◯村田篠◯鈴木茂雄◯瓦すずめ
■祭りの歴史を感じさせられます。(瓦すずめ)
■この村を流れる川のように続いてきた仕来りや行事。田舎のない都会育ちのわたしにとっては、物心ともに守り続けていくものがあるのは、むしろうらやましくもある。(鈴木茂雄)
■川は確かに時間をつなぐところがある。空の下に神話を感じる明るさがいい。(村田篠)
志ん朝の人情話冷やし酒 彩楓
◯鈴木不意◯かよ◯瓦すずめ
■しんみりした落語を聞いていると、冷やし酒もしみじみとあじわえるのでしょう(瓦すずめ)
■お酒が好きだった志ん朝さんを思い出す。めいめい好きずきに笑ったりぐっときたり、そういう時の愉しさも思い出させる句。(かよ)
■志ん朝ならこのくらい簡潔な表現が似合う。(鈴木不意)
詩の話恋の話や巴里祭 鈴木茂雄
◯ハードエッジ ◯彩楓
■甘甘こそ巴里。花衣お菓子の好きな巴里娘 ハードエッジ(ハードエッジ)
次々とスイカが割れてゆく話 近恵
◯西川火尖◯マリオ◯信治◯なかはられいこ◯杉太◯宮本佳世乃◯由季◯あまね◯青柳飛◯幸市郎
■合宿か何かでビーチのある場所に行った時の話をきかせたのかもしれないが、誰もいない夜のビーチで次々スイカが割れてゆく情景とかも想像(妄想?)させられてしまった。(青柳飛)
■難しいような簡単なような、いとも容易く「割れて」しまう大きな赤く甘い果実。「割」りながら進むのだ、そして進む時にはその記憶を携えながら。(あまね)
■~の話、という句がたくさんありましたが、これはさりげなく面白かったです。(由季)
■不穏です。テロっぽいです。ちょっと怖いところに惹かれました。(なかはられいこ)
■なんでも言えてしまう形で、どうでもいい嘘をつく。(信治)
■農業の話なのか、西瓜割りの話なのか、もう少し聞いてみたい(マリオ)
■聞き手のなす術のなさが、面白い。(西川火尖)
■会話の最中にスイカが勝手に割れるのなら楽しい(宮本佳世乃)
■月夜のスイカ畑。割っているのは昼間砂浜を見て学習した宇宙人。(杉太)
■スイカ割り? スラップスティックコメディーっぽいですね。(幸市郎)
■スイカ割り? スラップスティックコメディーっぽいですね。(幸市郎)
次々と変る話題やソーダ水 林昭太郎
◯鈴木茂雄◯瓦すずめ ◯彩楓
■ソーダ水という言葉を使うことで、次々と話題の変わる会話が、楽し気で軽快なものに思えます。(瓦すずめ)
■とりとめない話、時間を忘れてお喋りに興じる少女たち。一生のうちでいちばん楽しいころ。(鈴木茂雄)
蛇を見る腹話術師のやさしき目 石鎚優
若竹の腋臭を若造の話 芳野ヒロユキ
守宮来て余分な話はぶかれる 彰子
◯村田篠◯村嶋正浩◯かよ◯照屋眞理子
■守宮はたいてい同じ場所に現れ、毎日出会うといつの間にか親愛の情さえ湧くようになる。我が家に今年初めて現れた日も、ああそんな季節になったのだと、夫婦して、愛らしい小さな五指にしばし見とれ、それまでしていた話は確かにどこかへ行ってしまった。(照屋眞理子)
■話の切りあげ方がわからず、あるいはその気がなく、どんどん続いてゆく話が、守宮によってふいに断ち切られる。そこにある安堵感。(かよ)
■田舎の夜の家庭の写生である。余分な話である。食後の寝るまでの余分な時間の余分な話である。姿を見せて、話が途絶えるのではなく、省かれる。余分な話だからだ。(村嶋正浩)
■話はちょっとしたきっかけで省かれる。「あ、守宮」と目の逸れる一瞬が見える。(村田篠)
手で話す二人に遠き花火かな 笠井亞子
◯青砥和子◯石田遊起◯村田篠◯中村遥◯黒田珪◯石鎚優◯青島玄武◯羽田英晴◯吉野ふく
■花火は見えるけど遠いので音は聞こえない。なのに二人も無言劇のように言葉を忘れ手と目だけで会話をしている。お互いがいる小さな幸せ。(吉野ふく)
■でも二人は近い。大花火が幻影のようだ。遠花火ではない。(羽田英晴)
■簡潔で微笑ましい句。句の全体に動きがあるし、ドラマもあって楽しい。(青島玄武)
■二人は視覚・聴覚障碍者ではなく、「手で話す」のはいわゆる手話ではなく、この手と指の動きと形は二人だけに通じ合う意思疎通の手段ではか。それほどに今言葉の真実性が失われているから---。(石鎚優)
■花火は視覚以上に聴覚でも楽しむもの。その音が聞こえない二人にとっては花火もやや遠いものとなるのだろう。また現実に遠くで打ち上がる花火も目になら見えるという二重の構造になっている。(黒田珪)
■手話をしているこの二人には遠花火が見えているのだろうか。それとも遠花火を見て「きれいな花火だね」って手で話をしているのだろうか。私には花火の音が聞こえずに手話を楽しんでいる二人に思われた。(中村遥)
■手話のことなのだけれど、「手で話す」と書かれると、人はいろんな方法で話すことができることに改めて気づく。二人の近さが花火の遠さで引き立っている。(村田篠)
■手話の二人は人込みから離れて花火を見ているのでしょうね、すてきな関係。(石田遊起)
■手話で話す若い恋人たちを想像しました。無音の遠花火が美しい(青砥和子)
拾つた手紙の話或いはあの夏のすべて 生駒大祐
◯うさぎ◯村嶋正浩◯照屋眞理子
■「或いは」や「あの夏の」に短歌的な匂いがする。俳句で短歌を試みたのかな‥と。こういう実験、私は好きです。(照屋眞理子)
■「拾つた手紙」の中身は語られていない。その話と夏が対比されて置かれているだけだ。いったい何があったのか、読み手に委ねられている。手紙の中にその夏のすべてが書かれている、のだと。拾った夏であって、出会った夏ではないと。夏の出来事は、このようなもので、終わる、と。誰が書いた手紙か、知ってるよね、と。(村嶋正浩)
■俳句かと問われれば少し困るのだけれど訴えかけてくる抒情がありました。小野茂樹の「あの夏の数かぎりなきそしてまた たつたひとつの表情をせよ」をなぜか思い出しました。(うさぎ)
暑いねは腹話術師の暑いねに マリオ
◯ハードエッジ◯石原明◯鯨◯あまね
■「暑いね」とリフレインしながら二度目は「腹話術師」の言葉になるから実体がない。上手いですね。それゆえ受け手はもっと真実を手繰りたくなる。けれどもリアリティーは永遠に捉えられない。(あまね)
■二回目は確かに違うように鳴った。(鯨)
■俵万智の短歌を連想させる語り口が面白いです。(石原明)
■暑そうです、、、腹巻の腹話術師もありぬべし ハードエッジ(ハードエッジ)
暑き夜や腹話術師のよどみなく 守屋明俊
小話のあとの西瓜のなまぬるき 石田遊起
◯曽根主水◯阪野基道◯菊田一平◯一実
■ちょっとは笑える小話だったのだろうか。小話の後の倦怠感がいい。(一実)
■なまぬるいと同時に張りがなぅなって・・・いかにもいかにも。(菊田一平)
■三角に切ったスイカがお盆にのせられ、どうぞと言われたものの、夫の昇級や子どもの教育などを話していたら、ついつい時間も立ってしまい、まあいっか、と…。(阪野基道)
■漢字と平仮名の配分から末尾の言いさしまで、一句のなまぬるいルックと音が好きです。(曽根主水)
神話とは木炭の夜ひぐらしの夜 高橋洋子
◯佐藤日田路
■木炭(冬)ひぐらし(初秋)の季跨がりを言ってもつまらない。神話はこうして、育ち、語り継がれていく。個人的準特選句。(佐藤日田路)
神話より三日後の空ところてん 鯨
◯信治◯彰子
■あっけらかんな風景、「ところてん」のひらかな表記に頼りなさと図太さが見えました。(彰子)
■天地開闢以来ということなんでしょうけど。(信治)
星今宵雨にくぐもる腹話術 菊田一平
◯近恵
■腹話術へ落とし込んだところがおもしろい(近恵)
青ほほづき叔母の再婚話かな 小林幹彦
◯阪野基道◯きゅういち◯青島玄武 ◯彩楓
■「青ほほづき」がに何とも生々しい。驚きがあって、これから後がどうなるかが気になるところ。(青島玄武)
■「叔母の再婚話」などはどこか遠いはなし、けだるげな空気感が「青ほほづき」と呼応する。(きゅういち)
■叔母は再婚するために若返っているのかもしれない。ほおずきはまだ青いのだから。叔母はかなり乗り気のようだからうまくゆくだろう。微笑ましくも、なまめかしい句。(阪野基道)
雪女たとえ話に不適切 あほうどり
◯幸市郎
■雪女は冬の季語だが、テレビによく出てくるのは夏の様な気がします。雪女という言葉は不適切?(幸市郎)
仙人掌の花や受話音量最大 半田羽吟
◯クズウジュンイチ◯怜
■仙人掌の棘は葉の退化、従って最大の音量は必然。(怜)
■サボテンの漢字表記が白髪の仙人を想起させ、耳の遠い老人の電話であることをスムーズに感じさせる。(クズウジュンイチ)
扇風機土地改良の話せむ クズウジュンイチ
◯西川火尖◯石原明
■土地改良というレトロっぽい言葉が扇風機にあっているような。昭和の風景。(石原明)
■説明会か何かでしょうか。殺風景な部屋で会議机やら椅子やら並んで扇風機が首を振っている、それを面白いと感じさせる魅力がこの句にはあると思いました。(西川火尖)
地獄の釜の蓋あく話冷奴 羽田英晴
◯一実
■食卓の話題としてはおどろおどろしい。亡者が近しく思える夏の景色。(一実)
蜘蛛垂るる腹話術師の目の虚ろ 憲子
昼寝覚聞くともなしに手話ニュース 渕上信子
◯冬魚◯近恵◯杉太◯小久保佳世子◯林昭太郎◯あまね◯青島玄武
■わたくしも経験があるが、ただのニュースでなく、「手話ニュース」であることが真夏の真昼のけだるさを活写している。(青島玄武)
■先の暑いねの句に似た意味合いがあります。こちらは前後が逆でリアリティーは「手話」を通した言葉の中身にあります。意味合いの実体の把握は大変重要ですね。でも、「聞くともなし」に「聞」いているそして確かにそれを見ている訳ですね。(あまね)
■まだはっきりしない寝ぼけ眼に手話の手がひらひらと・・・。(林昭太郎)
■「聞くともなし」まさにそんな感じです。ニュースの内容より手話の動きをぼーっと見ているのは昼寝から覚めたころのような。(小久保佳世子)
■聞いているのか、見ているのか。そのどちらでもなさそうだ。(杉太)
■聞いている筈なのに、音よりも手話をみているように感じるのがおもしろい(近恵)
■寝ざめの悪い「昼寝覚」。「手話ニュース」がナイスです。理解できず、ぼんやりと見入ってしまう感じ、わかります。(冬魚)
電話ボックス砂とくの字に死ぬ蜂と 加納燕
◯村田篠◯怜◯トオイダイスケ◯青木ともじ
■ものすごい実感のある句。電話ボックスによく蜂が死んでいるし、その体は不器用に折れ曲がっているし、砂なんかないはずなのに死んだ虫の周りって、なぜか砂にまみれていますよね。どうしてなのでしょう。(青木ともじ)
■海辺のような雰囲気。禍々しいほどの暑さも感じる(トオイダイスケ)
■ボックスの密閉感と、砂の質感。くの字の蜂のリアル。
モノは語る。(怜)
■ほとんど使われていないうらぶれた電話ボックス。「くの字に死ぬ」のそのまま感がリアル。(村田篠)
桃の皮雨は神話の中に降り うさぎ
◯羽吟◯渕上信子◯村田篠◯野口裕◯生駒大祐◯怜◯酒井匠◯トオイダイスケ◯Y音絵◯吉野ふく
■桃の皮はむかれてしばらくすると美しい桃色から寂しい茶色になってしまう。でも雨は静かに神話の中に音もなく降っている。なんだか希望を感じる。(吉野ふく)
■目の前で身から削がれ捨てられてゆく桃の皮と、神話の中に降る雨という二つのエロスが、互いに増幅しあうさまに、強く惹かれました。「kawa」→「amewa」→「shinwa」の、「wa」の音の繋がりも壮観です。(Y音絵)
■禍々しい世界の歴史の始まりの頃の、生態系や地形を変えてしまうような不穏かつ長く降る雨を思った(トオイダイスケ)
■もものけ姫。甘い匂いや蒸し暑さを濃厚に感じました。(酒井匠)
■皮のけむったような透明感を効かせた。(怜)
■ムードがよくて、ムードに流れ過ぎていないですね。(生駒大祐)
■古代文明は自然の恵みもずたずたにし、素朴な神話をも引き裂いた。あとは嫋々と雨降るばかり。(野口裕)
■「桃の皮」がヘン。その奇妙さが、雨を神話の中に閉じ込めている。(村田篠)
■ゼウスは黄金の雨となって窓から入り、ダナエと・・・。 ただ、桃の「皮」には違和感が。「白桃」とか、食べる前の瑞々しい果物のほうが良くない?(渕上信子)
■桃の皮以外はモノクロームな印象。(羽吟)
白桃の匂い誰にも話さない かんな
◯光明◯酒井匠◯芳野ヒロユキ
■そう言われると余計に気になる。「秘すれば花なり」でしょうか。(芳野ヒロユキ)
■甘さ、色っぽさを伴う、しかし事実自体は人に言っても何の問題もない事柄を、密かな楽しみとして黙って抱える感覚に、思い当たるところがありました。(酒井匠)
■大切な私だけの体験!誰かに話すとその匂いが消えてしまいそうで・・・(光明)
夫の友とする香水の話かな 酒井匠
◯渕上信子◯きゅういち
■「夫の友」、おそらく男性であろう。そこの話題が「香水」となれば、それはもう危険な香りと言わざるを得ないんじゃ?(きゅういち)
■「夫の友」である男性とする香水の話。スリリングだけど、あまり夢中にならないで。ご主人が見てますよ。(渕上信子)
風鈴や話した人のゐなくなる 上田信治
◯生駒大祐◯由季◯黒田珪◯小久保佳世子◯トオイダイスケ
■風鈴が鳴ったせいで人が消えたみたいな感覚になる(トオイダイスケ)
■話したのが何時なのか曖昧なところ、そして「話した人」という漠然とした言い方。その朦朧世界に風鈴だけが響いています。(小久保佳世子)
■人は亡くなるにしてもその場からいなくなるにしても、置き去りにされた方からしてみたら風がさらっていったかのような感じを持つ。風鈴の音にその人の面影や一緒にした話などの記憶が呼び覚まされ、そして残る風の音を一人聞いているという情景。誰にも身に覚えのある感覚ではないだろうか。(黒田珪)
■それほど親しい仲ではなく話をしたことのある程度の人、意外に喪失感が深いということあります。(由季)
■親近感の湧く作り方で好きです。(生駒大祐)
腹話術の人形嗤う日雷 石原 明
◯菊田一平
■不気味さがシュールです(菊田一平)
聞かなければよかつた話冷奴 照屋眞理子
◯加納燕◯杉太◯光明
■過程や背景聞いたおかげで、自分が作り上げたイメージを壊されてしまう。しまった!面白い!(光明)
■絹ごしの冷奴。箸でつつくと必ずこわれる。そんな話のようだ。(杉太)
■そんな日の冷奴には、薬味を山ほどのせるといいと思います。(加納燕)
保険勧誘熱きAIロボナオミ きゅういち
◯加納燕
■ナオミという名前のチョイスの良さ。色っぽくて有能なのでしょう。(加納燕)
盆踊りスピーカーから秘話もれる 西村小市
◯冬魚◯石田遊起◯杉太◯菊田一平
■いかにもありそうで笑えます(菊田一平)
■こんなアクシデントがあれば、楽しいですね。(杉太)
■なんとも楽しい句。小さな町の盆踊りならでは。(石田遊起)
■やっちまった感が場内に満ち満ちる瞬間。想像すると、なんだか笑えます。「秘話」は男女関係の話に違いなく。(冬魚)
密漁の話や桐の実の鳴つて 中村 遥
夜話を反芻したる浴衣かな トオイダイスケ
◯赤野四羽
■夏の夜、暑さでなかばボーっとして話も耳を通り過ぎていく。あとになって考えてみると結構大事な話だったような…。(赤野四羽)
緑陰や風の童話を聞いてをり 吉野ふく
話さうとすればちぎれてゐる胡瓜 Y音絵
◯野口裕◯佐藤日田路◯彰子
■ちぎれているものが熟れ過ぎた胡瓜・・・かみ合わぬ会話イライラ感。(彰子)
■人の死もかくも突然にやってくる。今を生きろということか。(佐藤日田路)
■「実は…」。以下、読み取れぬ文面続く。キュウリの種は取れなんだ。(野口裕)
話しつつブラはずしゐるトマトかな 村嶋正浩
◯冬魚◯西川火尖◯マリオ◯信治◯渕上信子◯佐藤日田路◯光明◯鯨◯一実
■妻か恋人か。恋愛の延長線上にある互いへの慣れを感じる。「トマト」がキュートで愛を感じる。(一実)
■トマト、これは商業的なブラ外しだろう。(鯨)
■ユーモアたっぷりな色っぽさ!トマトが抜群に効いています!。(光明)
■それしかすることがない二人。トマトが新鮮にも猥雑にもとれる。(佐藤日田路)
■取り合わせのトマトが効いています。(渕上信子)
■好ましい。(信治)
■トマトが暑苦しいから行動がガサツに。早く秋にならないかな(マリオ)
■生活の中の脱衣って感じがして、こういう脱衣も自分は好きです。(西川火尖)
■色気がないなあと思わせてからの「トマト」の唐突。何やらエロティシズムを感じます。『愛の嵐』のジャムに比べると、トマトには随分と健康的な情事の香りがしますが。(冬魚)
話し声の主明らかに昼寝覚め かよ
話せばわかるブーゲンビリア咲く 赤野四羽
◯ハードエッジ◯あほうどり◯沖らくだ◯あまね
■「ブーゲンビリア」、私たちの生活から少し遠い草花ではありますが、何もかもすべてのものにボーダーが無くなりバーチャルなものですらも実感として捉えられるがごとく変化して来ています。私たちの将来はこうなるのでしょうね。(あまね)
■そんなおりこうな花ならうちにもほしい。(沖らくだ)
■終戦間際の南方戦線を思った。玉砕をあざ笑うようブーゲンビリアが咲いていた。(あほうどり)
■たんたんと書いています。未曾有の帝都大不穏事件、南方の激戦の島など連想。ばぶげびの濁音は爆音か阿鼻叫喚か(ハードエッジ)
話だけ聞けば海月のことと思ふ 西川火尖
◯なかはられいこ◯かんな◯竹井紫乙◯照屋眞理子◯一実
■見れば海月ではない?!しかしやはり海月を思わずにはいられない。(一実)
■ぽっと投げ出された言葉。何だかよく分からない。けれども、海月という言葉が連想させるイメージだけは伝わってくる。水族館で見た海月を美しいと思ったこと、或いは「海月なす漂える‥」の混沌。ふわふわと捉えどころのないイメージそのままの句は、しかしなぜか楽しく、俳句ってそういうものかも知れないと勝手に思ってしまった。(照屋眞理子)
■美しく書かれているけれど、これって結構な悪口。くらげの比喩を考えると、笑えます。(竹井紫乙)
■実は、海月ではなかったのです。海月の茫洋感隠れなし。(かんな)
■「話だけ聞けば」というありふれたフレーズがうまく活かされてると思います。水母ではなくくらげでもクラゲでもなく、海月なところに話の内容が暗示されてるような気がします。(なかはられいこ)
話には聞いている花火と違う 曽根主水
◯野口裕◯あまね
■知ってますよ。でも言いたくないのよ。あれでしょう。戦火。(あまね)
■てにをはのアクロバット。(野口裕)
話にもならぬ話を真桑瓜 佐藤日田路
◯村田篠◯羽田英晴
■真桑瓜ってそんなもんです。でも好きです、見つけたら必ず買います。(羽田英晴)
■「話」というものに少々うんざりしている感が出ているのが面白い。(村田篠)
話術などつひぞ磨かず金魚売 由季
◯竹井紫乙◯守屋明俊◯憲子◯黒田珪◯かよ
■金魚とともに歩き、金魚とともに座る。売り声だけはピカイチの金魚売りは今日も金魚とともにゆく。静かな、そして確かな人物が思い浮かぶ。(かよ)
■屋台の金魚には黙っていても大人も子供も寄っていく。だから金魚売はあまりしゃべらない人も多い。じーっとして客の手つきを見ながら先を読んでの動きは早い。話術などなくても、という金魚売の、そして金魚すくいの景をよく詠んだ一句。(黒田珪)
■幼い頃の金魚売の声を懐かしく思い出しました。(憲子)
■金魚売りのぶっきらぼうな口の利き方が「つひぞ磨かず」から想像できる。そう言えば笑顔の金魚売りはついぞ見たことがない。(守屋明俊)
■シブい。「つひぞ」が特に。私も不愛想な方ではあるけれど、これには敵わない。素晴らしい金魚を想像しつつ。(竹井紫乙)
蛞蝓に短き舌のある話 ハードエッジ
◯うさぎ◯笠井亞子◯宮本佳世乃◯クズウジュンイチ◯中村遥◯怜◯佐藤日田路◯Y音絵◯青木ともじ
■えっ、そうなんだ。と思ってgoogleさんに「ナメクジ 舌」と検索をしたところ…。まあみなさま試してくださいませ。(青木ともじ)
■こんなに愛らしい蛞蝓に出会ったのは初めてです。「蛞蝓」と「話」には「舌」の字が含まれるという事実もまた、かけがえのない出会いのように思われました。蛞蝓の「じ」から句末へと及ぶi音の連鎖も見事です。(Y音絵)
■ナメクジが短い舌でカマトトぶってなぁ。あいつはいったいを喰っているんだろう。(佐藤日田路)
■虫偏に舌、削り食べる舌。ぞわっ。(怜)
■蛞蝓の舌の話、詳しく聞いてみたい。蛞蝓は草食性。(中村遥)
■ナメクジの歯舌は確かに短くてかわいらしい。(クズウジュンイチ)
■虚の色が濃いなぁと。話で止めたとこもでたらめっぽくていい(宮本佳世乃)
■きゃっありそうだ。(笠井亞子)
■短い、というところがいいです。話と落としたところも上手いと思います。(うさぎ)
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