【みみず・ぶっくすBOOKS】第13回
文学無料配布マシンと俳句コンテスト
小津夜景
フランスに Short Edition という、その名のとおり短編を好んであつかう出版社がある。この出版社は自分たちの活動を《プラットフォーム》と位置づけていて、この「週刊俳句」のように何かを書きたい人達の《場》になっているようだ。
書きたい人達ばかりではなく、読みたい人達の《場》としてもShort Editionには面白い工夫がある。いったいどのような工夫かというと、市役所、図書館、駅といった公共スペースに文学の無料配布マシンを設置しているのである。
で、つい先日この配布マシンから俳句が出てくるという噂を聞いた。本当だろうか。そんな可能性を想像したこともなかったわたしは実際に確かめにゆくことにした。
ひとつ問題なのは配布マシンにはストーリーの長さによって1分、3分、5分と三種類のボタンがついており、読者がボタンを押すとレシート状の作品がランダムに出てくる仕組みになっていること。つまりこの自販機、読みたい作品を自分で選べないのだ。
運良く俳句に出会えますように、と思いながらさっそく駅へ。その辺にいた駅員さんを捕まえて「短編の販売機はどこですか?」と尋ねると「コンビニの横だよ」と教えてくれる。ついでなので「この販売機、この国全体で今何台くらいあるんでしょう?」とさらに聞いてみると「駅だけで100箇所くらいかな」との返答。けっこうな台数だ。
駅構内のコンビニへ向かう。するとはたしてその横の休憩スペースにベンチ、テーブル・フットボールの台、アップライトピアノ、そして配布マシンがあった。さっそく近づいてみる。
一枚目はフォンテーヌの詩「カラスと狐」。おお。あの塚本邦雄の「暗渠詰まりしかば春暁を奉仕せり噴泉(ラ・フォンテーヌ)La Fontaine」のフォンテーヌである。再度押す。と、またフォンテーヌ。三枚目が「真夏の夜の夢」という短編。四枚目はずいぶん長い。普通の人はこれ を1分で読めるのだ。ならば5分のレシートはどのくらいの長さなのだろう?と好奇心が湧いたが、あまり何度も押すと公共マナーに触れそうなので我慢するこ とに。
またこれ以外に、ふだんか らいつでも俳句と短歌を投稿できることもわかった。下の画像右側の詩型(FORME POETIQUE)という欄をみると、投稿できるのはアレクサンドラン、俳句&短歌、スラム、ソネット、寓話詩、散文詩、歌詞、自由詩、8ないし 10音節詩行の9ジャンル。俳句&短歌が一ジャンルというのはちょっとすごい。
ここに投稿された作品は、インターネットを通じた読者の反応とShort Edition編集会議とを合わせた結果、雑誌、配布マシン、ポッドキャスト、その他の方法でさらに広められるという仕組みのようだ。なかなかおもしろそう。応募してみようかしら。
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