【句集を読む】
赤子と真蛸
土屋郷志『法螺』
佐藤文香
赤んぼは真蛸の如し半夏生 土屋郷志(以下同)
赤ん坊と真蛸の共通点は、赤いことである。時期は半夏生なので、水気が多いのも似ているかもしれない。
しかし、決定的な違いがある。赤ん坊はかわいいものと思われているのに対して、蛸は気持ち悪いものと思われていることだ。それを「如し」の直喩で結びつけることで、双方の「命である感じ」が際立った(ちょっとウケた)。
で、後日談。というか、翌年(この句集は編年体なので次の章)。こんな句が出てきた。
初孫を祝ふ真蛸や半夏生
「真蛸の如し」と思ったときには、本当の蛸はいなかったはずである。それが、お祝いに、本物の真蛸が来てしまった。前年は他人の孫の話だったのかな。今度は自分の初孫。並べてみると、サイズ感的にも、頭が大きいことも、似ているなぁ。そして「あかんぼ」「はつまご」「まだこ」、aで始まりoで終わる、音も通じる。だいぶウケた。
土屋郷志さんは、私が12年前に「里」に入ったときからの仲間で、跋文で島田牙城氏が「佐久の良心」と書く、その誠実さについては重々承知していたのだが、今回句集を読んで、この人の「そのまんま」を書いてしまえる天然っぷりが可笑しかった。
夏草を刈れば親しき犬ムサシ
この句を初めて見たのは「里」誌上で私が担当した選句欄「ハイクラブ」である。なんと言っても犬の名がムサシなのがよい。雄々しい名前なのにカタカナなのもよい。夏草を刈るこの人も犬のように真面目な人であるのがよい。なお、この句も「くさ」「かれば」「したしき」のk音で真面目に述べておいて、「したしき」「むさし」のs音が心をさするので、音的にも気に入っている。
それぞれの犬に小屋あり春の雪
ムサシ以外にも小屋があるのだなぁ。もうそろそろ暖かくなるし。よいことだ。
足つぼを探り当てたる炬燵かな
鼻息の二筋白き仏間かな
紅葉を観る格好で放尿す
片言の英語で遊ぶクリスマス
「鼻息の二筋」だとか、紅葉の句はそれ自体、普通ならそういうことを言うのが好きな人(お下品な人)が句材にしそうなんだけど、郷志さんは本当に実直な人で(会ったことがなくても句集を読めばわかる)実直だからこうなっていると思うと面白い(ただ、放尿の次の句は「二股の大根の腿撫で回す」なのでここだけ見るとただのお下品な人だ)。「こーよー」「かっこー」「ほーにょー」の音のすっきり感については言うまでもない。
炬燵に入って正面の相手の足のつぼを「探り当てたる」郷志さんには、エッチな気持ちなど微塵もないのだろうと思うにつけ笑ってしまうし(大根の句を見せてしまったあとだと信憑性はないかもしれないが)、クリスマスの句は「英語で遊ぶ」のがよい。「オー!」「ヘイ!」「メリークリスマス!」「イエーイ!」「アイムハッピー!」を延々繰り返していそうだ。
メリークリスマス。
土屋郷志『法螺』(2016年12月 邑書林)≫オンラインストア
2016-12-25
【句集を読む】赤子と真蛸 土屋郷志『法螺』 佐藤文香
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