2017-05-21

伝書鳩3 杉山久子×佐藤文香

伝書鳩
杉山久子×佐藤文香による往復書簡
第3回





久子さま

句集『泉』をありがとうございました! おもろかったです。ふらんす堂のシリーズの綺麗系な装幀なのがもったいないくらい「おもろい」と思いました(これ、褒め言葉のつもりで言ってます)。

上手なイイ句については、もう他の方がたくさんお書きでしょうから、わたしは『泉』おもろイイ十句を挙げますね。

星涼しトナカイの肉切り分けて
  捨てられしバナナの皮と本の帯
  人悼む白シャツにかすかなフリル

「トナカイ」が肉として食べられること、ゴミ箱のなかではバナナの皮と同列な「本の帯」、礼服の「フリル」。これらは、本来はどちらかといえば「素敵」な素材なのですが、あれれっと思うタイミングについて書かれているのがおもしろい。

秋の日に静止画像のごとくゐる
  露の世にボーカロイドのうたふ愛

動画を停止させたときみたいな妙な姿勢で、今「ゐる」と、客観的に自分の姿を認識している。シンプルでありながら、現代的な句だなと思いました。現代的といえば、あの高いピーっとした切ない声、「露の世」感ハンパない。今せっかくなんで「SPiCa」ってボカロ名曲聴いてるんですけど(@荻窪のスタバ。もちろんイヤフォンで)

ため息で 落ち込んでいた午後
   想うだけ 君の名を一人つぶやくわ
   あさはかな愛じゃ 届かないよね
   会いたくて ピアノ奏でた音
   苦しくて 溢れ出す
   余韻嫋々 君に届け
        (作詞:kentax vs とくP 作・編曲:とくP)

余韻嫋嫋って・・・・・・ちょっと感動していたら、隣の人が盛大にスターバックスラテ(ホット)をぶちまけて、店員さんが拭きに来て、恥ずかしかったので、一旦パソコンを閉じました。

  いにしへのパンクロックや月見草

これは、パンクロックというものの古い時代の曲を指すのか、それとも縄文時代におけるパンクロック的なものなのか(笑)。わたしは、銛を振り回しながら毛皮の人たちが火のまわりで歌うのを想像したので、後者であってほしいです。月見草が凛としてる(笑)。

  たよりなきファンひとりゐる冷奴

もちろん久子ファンのことですよね? でも、一人じゃなくて何人か思い浮かびますよ、俳句系中年男性。ま、そうじゃなかったとしても、たよりないファンが一人しかいないような人というのは存在として哀れなわけで、おかずとしても大変心許ない冷奴みたいな奴なのでしょう。

  珈琲におぼるゝ蟻の光かな

いやいや、かわいそうやし、蟻入ったらあかんし! あぁあ、その珈琲もう飲めへんし、久子さん見とらんと、どうにかし・・・・・・「蟻の光」とかカッコイイこと言ってる場合ちゃいますやん! なぜか関西弁で突っ込み。

  入金をたしかめてゐる生身魂

いますよねー、ATM。店の人に後ろから教えてもらってるから遅いんですよね。だいたいこういうときに限って小さい店舗で、機械が二台とかしかない。列に並んでると、その人のことばっかり見てしまう。こういう人が振り込め詐欺にひっかかるんじゃないかと不安に思ったりする。季語「生身魂」が最高ですね。「入金をたしかめてゐるおぢいさん」では、ここまでの味わいが出ない。もしかしたら、ATMが次の世につながってるかもしれません。

ここまでで九句紹介しました。「フリル」の句は句またがりですけど、すべてバッチリ十七音、有季定型。それがいいんだと思います。

人を笑わすときに自分が笑ったらいけない、笑わそうという意図が少しでも感じられたらいけない、なんなら真面目に言ってるつもりの人こそが、人を爆笑させられる。

有季定型というのは、その「真面目」ぶりなわけですから、そんなちゃんとした俳句から久子さんらしさ(「伝書鳩」は久子さんが面白いと評判)が滲み出てしまったときに最も輝くのです。そして、一番笑ったのは次の句。

  セーターの毛玉を取れと神の声

「神の声」て! 友達でも親でも自分でもない「神」。この声を聞いてしまったときの久子さん、もしかすると静止画像のごとし、かも。もさもさになったセーター着てる久子さん。もうなんて言えばいいのか。久子音頭? 最高ですよ。
てなわけで、「そんなつもりじゃない!」や句集裏話など、ございましたらぜひ。

文香



文香さま

『泉』の評をありがとうございました。大笑いしながら読みました。文香ちゃんが取り上げてくれた句はほとんどが句集の中ではマイナーだけど、自分では気に入っているもので嬉しかったです。

「珈琲におぼるゝ蟻」実際は紅茶に溺れていたような気もするけれど(どうでもいい情報)、勿論眺めた後は助け出し、飲みました。蟻くらいなら大丈夫なのよ。カメムシとかオタマジャクシとかだったら飲まない。

「いにしへのパンクロック」はいまだかつて誰にも取り上げてもらってないけれど、自分では「月見草がいい仕事してるわ」と思っていたので特別嬉しいです。

最初は古い時代のパンク曲の意味で作ったのだけれど、だんだんもっと古い時代の、出始めたころは衝撃的だったのに中途半端に時間が経って居心地悪くなってしまったもののイメージも自分で重ね合わせるようになってきました。わたしの「いにしへ」はせいぜい平安時代くらいまでですね。縄文時代まで遡ったのにはびっくり、大受け。

「神の声」、私にはこれくらいの啓示をくれる神様がいいかなと思ってます。あまり恐いこと言われても困るので。

毛玉の事を考える時、よく思い出すのが皇室の方々のこと。

いや、逆でした。冬に皇室の方々をテレビで見ると、つい毛玉の事を考えてしまうのです。この人たちは毛玉を見たことあるのかな? と。あるかもしれないけれど、毛玉のついたコートとかセーターを着ることはないだろうなと。別に普通のセレブの洋服沢山持っている人でもそうかもしれないけれど。あ~、毛玉って枝毛と一緒で取れば取るほど気になりだしてキリがないんだよね。

…て、またどうでもいい話に。

でもこの書簡は基本どうでもいい話で進んでゆくのであった、と気を取り直して。

今回の句稿を送った後気づいたのですが、前回

  筍とタウンページをもてあます

という句を出していたのをすっかり忘れていて、また今回「もてあます」句を出してしまっていた。内容は違うけれど同じ発想。入れ替えを頼むのもご迷惑だろうと思い、こうなったら「もてあますシリーズ」で色々作ってしまえと思い(乱暴な!)、そのままにしました。

「クプラス2号」を読んで下さったある女性の俳人の方から「伝書鳩」への感想をいただきました。

「パソコンゲームの話題には思わずうなづいてしまいました。私の気に入りはウィンドウズ本体ではなく無料のパズルサイトで「ケーキソリティア」というものです。とても可愛く一度解けてもしばらくすると忘れてしまい又楽しめるというもので密かにお勧めです」

一度解けてもしばらくすると忘れてしまうという一文に痺れ、これはやらねば!と探してみたのですが上手くいかず、イラッと来たので、昔やっていたフリーセルでもするかとあちこちのサイトをめくってみるも、私が知る過去のフリーセルと違う。カードがめくれていないではないか。益々イラッとしたまま時間だけが過ぎてゆくのであった。こんなことしてる暇はないのに。

…というように、気づけば私がもてあましているのは、筍よりもタウンページよりもモアイよりも赤い羽根よりも何よりも、そう、この私自身なのでした。

  もてあます恋猫ぶらさがり健康器 久子

文香ちゃんは自分のことをもてあますことありませんか?私ほどではないにしても。
お願い、あるって言って(笑)。
久子












久子さま

私も自分自身のこと、超絶もてあましてます。だいたい、一人で家にいると何していいんだかわからない(勤めていないのに。これでは何もできない)。テレビも見ないしガーデニングもしないし、本は読まなきゃだけどエイッと力を入れないと読めず、気がつくとツイッターとフェイスブックとメールの画面を交互に見ているだけの時間が過ぎていることがよくあります。

料理以外の家事はわりと積極的にこなすタイプなので、というより体を動かしていないと不安で、洗濯やクイックルワイパーをしてると気持ちが落ち着く。最近は断捨離と言うんですか、いらない服や本を捨てたり売ったり、何しろ体を動かして達成感を得る、というのが好きみたい。しかしそれは置いておいて、一人で一箇所に座っているのが苦手というのは、本当に仕事が進まなくて困ります。大して多くもない仕事が、いつまで経っても完成しない。

人に見られていると思うとまだマシ。だからノマド的にスタバに行ったりしてるわけですがそれも飽きてきて。こないだ「新宿 カフェ 勉強」で調べたら(我ながらヒドい検索ワード)、「Wifi完備・電源完備・三時間千円ドリンク飲み放題」というところを発見したので行ってみました。

オシャレだし店員のお姉さんは美人だし、居心地は大変よくて(隣はイケメンだった)良かったんですが、ブログとメールを何通か書いて満足してしまい、仕事は一向に進まず。

なんなんでしょう、書き仕事向いてないのかな……。でも家にいるよりはいい気がして、これはいっそシェアオフィスとか借りるべきなのかと思って検索し始めて、いやいやそんなするほど仕事ないだろ! と思っては、週三でカフェ行くのとどっちが安いかな、でも借りたら借りたでまた仕事できなくて落ち込んだりするんだろうな、と、考えは堂々巡り。

できるだけ人前に立つ機会を減らして、書き仕事を増やしていきたいという思いとは裏腹に、自分が一人で何もできない人すぎて、家にいても焦るばかりではかどらず、室内を歩いている。もうそんなに動きたいならむしろ? ということでランニングを始めました。続くといいですけど。

あと、何かひとつのことに集中するのが大変苦手で、気が散ってないと仕事がはかどらない。友達とメッセージでやりとりしながらとか、彼氏と電話を繋いでいる状態で一番仕事ができるという、なんとも迷惑な人間です。俳句を考えるときは一人でもいいのですが、別に誰かいたっていいという有様で。この前なんか、だらだら電話で喋ったり喋らなかったりしながら仕事をやり遂げたら、通話時間が異例の六時間超え。通話料定額じゃなければ絶対ありえません。はー、一人で仕事して一人で住んでる意味がわからない。

今これは自宅の炬燵で、大音量で音楽を聴きながら、ツイッターでカピバラの写真を見ながら、子宮頸がん検診の予約を入れたりしながら、どうにか書いています。久子さんはお勤めしてらっしゃるからこんなことはないと思いますが、どうやって集中力保ってます?

はぁ。

話は変わって、わたしはこの「クプラス」の他に「里」と「鏡」という同人誌に参加していまして、その「里」の若手八人で「しばかぶれ」という作品集を作ったので、お送りします。編集長の堀下翔は筑波大学の二年生。よく一緒に俳句の話をしたり、俳句の仕事を手伝ってもらったりしています。有能。

特集は中山奈々で、彼女も「しばかぶれ」の一員です。高校時代から俳句を書いていて、現在二十九歳なのですが、若手アンソロジーに入集しなかったので、私が今までの彼女のほとんど全部の作品を見て、百句選んでみました。

 腹痛の弱ささびしさ綿虫呼ぶ  奈々
 春寒の無礼を別の人が詫びる

情けなくてバカで面白くてほっとけない、かわいいヤツです。他のメンツもなかなか面白いので、ご笑覧いただければ幸い。
文香



超絶自分持て余しの文香さま

嬉しいです。持て余し仲間がいて。カピバラは和むよね。カピバラがお湯に浸かって目を細めている画像なんか見ると「こやつはなんでこんな幸せな目に遭ってるんだ」とほこほこします。今年の冬も柚子湯に入るのかな。

そしてこの人も仲間では?と思う人が。(違ってたらごめんなさい)。中山奈々さん。

「しばかぶれ」送っていただきありがとうございました。その奈々さんが特集されている!以前からこの人の句をまとめて読んでみたいと思っていた私にもタイムリーな発行でした。

とにかく句がおもしろい。選べないくらいどの句も面白い。意表をつかれるものばかりです。

 メロディーと名付けし春の雲崩れ   奈々
 バンダナで縛るカーテンほととぎす
 後輩の快挙文化の日の暮るる
 畳むたびずれる新聞桜桃忌
 母さんが優しく健康に産んでくれたので飛蝗捕る
 やることがすべて大げさ菖蒲風呂
 保育器に差し込む腕や小鳥来る

疾走感とほんわり感が奈々さん特有のリズムで繰り出される句の数々。時々作品の下に自分の名前を書き込んでしまいたい衝動にかられる作家さんがいるのだけれど、奈々さんもそんな一人。

 帰路持たぬ精子春一番か二番
 鳥雲に帰りの電車賃残す

帰路があってもなくてもなぜか寂しい。寂しいのに可笑しい。

 春寒の無礼を別の人が詫びる

可笑しくってかわいい。文香ちゃんがほっておけないという、多分他の皆さんもほっておけないのだろうという気持ちよく解ります。

田中惣一郎さんによるグラビアもいいね。

さくっとこんな颯爽とした雑誌を作った後の七人の皆さんの句を一句づつ。

 夕照を川は流さず実むらさき 堀下翔
 嘴のぶつかつてゐるプールかな 喪字男
 秋さびしなかやまななになが三つ 小鳥遊栄樹
 トンネルが長くて虹を覚えてゐる 青本柚紀
 流れゆく元親友の挙式かな 佐藤文香
  (注:原句横書き)
 生身魂小豆洗ひに似てゐたり 青本瑞季
 手袋外すはマスク外すため 田中惣一郎

第二号からも楽しみにしています。

ところでご質問のどうやって集中力を保つか?集中力は私もないほうで。これ書きながら、ついフェイスブック見てみたり、昨日友人が読み方が判らないと言っていた字を突然思い出して調べてみたり(「ひちりき」でした)、ついその辺の雑誌を読んでみたり、そうそう、文香ちゃんも書いていた断捨離というか、掃除してからとりかかると割に何かの原稿書くときはかどる気がするんだった…。と、思い出して、掃除を始め、やり始めるとあちこち汚れが気になりだし、疲れてお茶に。

昨日行きたくて行けなかった着物イベントを思い出して、別の機会にと着物コーデを考え出したら止まらなくなり、次の二胡ボランティアで手品をしようと仲間と話していたことを思い出してネットで手品グッズを調べたり…。基本俳句より他の事しているほうが好きで、特に文章書くのは嫌いなので逃避したくなり、ついそっちへ気が行ってしまう、という。

誰か集中力ある人を探しましょう!

ランニング続いてますか?人がやっていると楽しそうでやりたくなる私。文香ちゃんはフットサルしてるから走るのは慣れてるよね。いまどきは格好がかわいいじゃないですか。私もああいう格好したさに、また山口県内にはなかなか魅力的なマラソン大会などもあって(大人気の下関海峡マラソンをはじめ、萩城下町マラソンなどなど)走ってみようとしたのだけど、じゃいつ走る?と考えると、夜はご飯食べたら動きたくないし、おばさんといえども田舎と言えども怖いし。

となると朝早く起きて?第一関門「布団から出る」というところで挫折したのでした。

挫折も得意な久子

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