2017-05-14

【週俳4月の俳句を読む】春なんだなあ 鈴木牛後

【週俳4月の俳句を読む】
春なんだなあ

鈴木牛後


もう立夏を過ぎたのだが、当地はこれから春の盛りを迎えようとしている。桜の開花は5月9日、たんぽぽもようやく咲いた。それと同時に、農家にとっては仕事が急に忙しくなる季節でもある。このように、春の喜び、気ぜわしさ、眠たさなどが一気にやってきて、私は外側から、そして内側から春に揺さぶられている。そんな時間を過ごしながら、私にとって気分的にタイムリーな春の俳句を読ませてもらった。


蜜蜂の重みに花のしたがへる  瀬名杏香

蜜蜂と花との共生。小さいものが小さいものを頼り、そして頼られる。その関係性に人間の手の届かない親密さを感じる。掲句は、蜜蜂のはかない重さに花びらがほのかに撓む景を描いているのだが、「したがへる」という措辞に「乗る―乗られる」という一方的な関係ではない能動が感じられる。従うということも、ひとつの生命体の意志なのだ。


沈丁とまんさく混じり青かりし  堀下翔

おそらくは春らしい風景なのだろうが、わからないのが残念。それは、当地には沈丁花も金縷梅もないからだ。作者は北海道の出身だが、もうすっかり内地の人になったのだなあと思う。まったく俳句の鑑賞にはなっていないが、これも確かに春の感慨のひとつ。


夜の蒲公英が電灯に集まりぬ  上川拓真

電灯の下で蒲公英に花の色がよく見えるということなのだろうが、蒲公英が集まっているという擬人化がとても春らしい。当地でも春の花といえばたんぽぽ。牧草地や道ばたのどこにでもあり、春の生命力に満ちあふれている。本当に電灯に集まってくるくらいのエネルギーはありそう。


うす睡りして休止符のあたたかし  小津夜景

最近は仕事ばかりしているので休息ということにちょっと憧れる。トラクターのなかでうたた寝をすることがあるのだが、それが「うす睡り」なのかもしれない。耳がおかしくなる(もうなっているかもしれない)ほどのエンジンを停めて、ふーっと息を吐く。規則正しいエンジンストロークが停まり、からだ全体が休止符で満たされるあたたかさ。


第519号 2017年4月2日
堀下 翔 篁 10句 読む
第520号 2017年4月9日
瀬名杏香 そとうみ 10句 読む
関悦史 台湾 10句 読む
小津夜景 そらなる庭に ピエロ・デラ・フランチェスカによせて 10句 読む
上川拓真 おほさじ 10句 読む
野名美咲 怪獣のバラード 10句 読む

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