【週俳5月の10句作品を読む】
世界がせいせいと
対中いずみ
朧夜のまばたきをみづ這ひのぼる 青本瑞季
句は具体的な像を結ばない。意味はよくわからない。だから私の左脳は反応しない。
けれど、右脳はくすぐられて気持ちよさそうにしている。
「まばたきをみづ這ひのぼる」とは、少しせつなくて官能的だ。
それは「朧夜」の気分そのものかもしれない。
みづかきの昏さにたんぽぽの綿毛 同
こちらも像は景を結ばない。けれども私の右脳のどこかしらがくすぐられる。
「みづかきの暗さ」は水中のものだと思いたい。水よりも少し暗い、水鳥の「みづかき」。「たんぽぽの綿毛」は、白とも言えず灰色とも言えない。あの「たんぽぽの綿毛」色をこんな風に意識させてもらったのは初めて。繊細な感覚がふわりと漂ってくる。
茉莉花や短き電話秘書課より 岡田由季
昔、秘書をしていたことがある。秘書は社の上層部の機密まで見聞きしてしまう立場なので、自づと寡黙になる。ちょっと貝のように閉ざしていなければならない。そんな気分に「茉莉花」は絶妙。あの薄紫の花はめだたないけれど澄んだ香りがあたりを払う。いつも行くセレクトショップの前庭の茉莉花、今年は見逃してしまった。少し口惜しい。
雨後の薔薇大きく息をしてゐたる 岡田由季
五月の雨後は奇麗だ。薔薇のみならず、作者も大きく息をしている。ほんとうは槐の葉だって蚯蚓だってきっと大きく息をしている。世界がせいせいとしている時間だ。
2017-06-25
【週俳5月の10句作品を読む】世界がせいせいと 対中いずみ
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