中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
第31回 アーサ・キット「サンタ・ベイビー」
天気●クリスマスですねぇ。
憲武●ですねぇ。
天気●クリスマスなんてぜんぜん興味ないんだけど、まあ世間に合わせてクリスマスソングを取り上げます。
憲武●パチパチパチパチ(拍手)
天気●アーサ・キット(Eartha Kitt/1927 – 2008)は、「Sho-Jo-Ji(The Hungry Raccoon)」(証城寺の狸囃子)やトルコの民謡風「ウスクダラ」とか「セ・シ・ボン」とかワールドワイドな選曲で知られる歌手。
憲武●細野さんの影響でシングル持ってました。エキゾチック・サウンドとしてね。hungry raccoon。B面はウスクダラだったかな。
天気●私は、父親のレコード、4曲入りのシングル盤サイズで知った歌手。
憲武●このクリスマスソングもよいですね。ベスト盤出てたら買おうかな。
憲武●しびれます。ストリングスとホーン・セクションの兼ね合い絶妙。
天気●と、曲についてはこれくらいなんですが、たまには俳句の話をしましょうか。いちおう『週刊俳句』ですし。
憲武●そうですね。たまにはいいですね。
天気●クリスマスの句をおたがい3句ずつ挙げるという趣向で、まず、
東京を歩いてメリークリスマス 今井杏太郎
この句に尽きます、クリスマス句は。何の工夫もないように見えて、東京の聖夜そのもの。その夜の光や音が読者に向かって一挙に押し寄せます。
憲武●いろんな東京の街が浮かびます。んー、ぼくは、
美容室せまくてクリスマスツリー 下田実花
この美容室、ヘアーサロンではなくて、あくまでも美容院でなきゃダメです。パーマ屋とも呼ばれてた頃の。あの、頭に被る御釜のような、チブル星人のような、ヘアドライヤーが置かれて、ごちゃごちゃっとした店内が、パーっと広がります。
天気●小さなパーマ屋に大きなツリー。いいですね。
憲武●外ではスーパーかどこかのジングルベルが鳴り響いていて。下田実花なので、ちょいと粋な風情も漂い、高揚感を感じます。
天気●いわゆる昭和のクリスマスイヴ。私の2句目は、去年の句集『フラワーズ・カンフー』から、
トナカイの翼よあれがドヤの灯だ 小津夜景
憲武●うーん、どうもジェームス・スチュアートを思い出しちゃう。「翼よ! あれが巴里の灯だ」の。
天気●「パリの灯」ならぬ「ドヤの灯」。これはある意味、クリスマスソングの王道。ピース・オン・アースの世界です。
憲武●「素晴らしき哉、人生!」なども思い出します。
天気●フランク・キャプラ監督、こちらもジェームズ・ステュアートですね。
憲武●そうそう。
天気●視座がすごい。上空からのクリスマス俯瞰。詠み手はサンタクロースかよ? っていう、ね。
憲武●たしかに。でもサンタのトナカイに翼あったかな。
天気●俳句の主体の変容・変転に関して、石原ユキオさんは「憑依俳句」といって、他者が乗り移るというタイプ。それとは対照的に、夜景さんは、この句に限らず「トランス」。どこかに飛んでいってしまう。憑依とトランスは、現象としては似ていても、動きは逆。巫女にも憑依型とトランス型があるそうです。
憲武●ふーむ。乗り移られるタイプと乗り移るタイプと。
天気●乗り移る、というか、視座の移動、魂の移動。「地に足をつけない」タイプの句を、この二分法で整理してみるのも面白いかもしれませんよ。
憲武●2句目は、
サンタクロース大きな足を脱いでゐる 大石雄鬼
イベントかセールを終えて、着ぐるみのサンタクロースを脱いでるところですね。中の人は意外にも女性だったりして。
天気●「大きな足」への着目。ああ、滋味、ありますねえ。私の3句目は、
定食で生きる男のクリスマス 中嶋いづる
クリスマスの週末、フランス料理やらイタリア料理のディナーは、しゃらくさい。外食なら、やっぱり定食ですよ、定食。値段はまちがっても4桁行ってはいけない。この句、ほんと、泣かせます。小洒落た店に食事に行ったりプレゼント買ったり、チャラチャラしたのに用はない。私はだんぜん、この「定食で生きる男」の味方です。
憲武●「定食で生きる男」にシンパシーを感じます。
天気●まあ、憲武さんも私もフランス料理ってガラじゃない。定食です。
憲武●3句目は、
クリスマス音痴静かに歌い出せり 蒲生貨車夫
やはりこの時期、賛美歌かゆっくりとしたクリスマスソングでしょうかね。もしかしたら自画像かもしれませんね。ペーソスを感じます。音痴は静かに歌いだすものです。
天気●ですね。ラヴ&ピース!
(最終回まで、あと970夜)
(次回は中嶋憲武の推薦曲)
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