【句集を読む】
瞬間と永遠
山田露結『永遠集』の二句
西原天気
〈瞬間〉のなかに〈永遠〉がある。
始まりも終わりもないという点で、〈瞬間〉と〈永遠〉は似ている。
落ちてくる手袋のまだ空中に 山田露結
その前もその後もない〈瞬間〉、前後と寸断された〈瞬間〉は、いかような時の流れにもすっぽりとはまり込む。物語を用意する必要もない。
掲句に、落とした人の所在やら落ちる場所を思い、それを物語化することもできるのだけれど、句そのものは、それに寄り掛かることなく、一瞬の静止画として提示される。無宗教・無精神のイコンのごとく。
脈絡不要の〈一瞬〉は、時間のなかに偏在し、溶け込み、結果、〈永遠〉と見分けがつかない。
死んだことのない僕たちに夏きざす 同
死と、死を知らずに息をすること=生と、両方に夏がきざす。この光と陰に満ちた一句にも〈一瞬〉がある。
死んだことなくのっぺりと延びる時間の帯と「僕たち」という反=固有の複数形に、あるとき理由もなく「夏」が「きざす」。
俳句は、よく言われるところのカメラとの類似やらをもって、〈瞬間〉を提示するに適格なのではない。経緯を述べなくてよい短さが、しばしば前後との断絶を生みだし、ちょうどよろしき偶然として〈瞬間〉が立ち上がる。
言ってみれば、物語や脈絡(叙述やら説明やらと密接な諸要素)の死角、あるいは隙間に出現する〈瞬間〉のイコンを、私たちは「俳句」と呼んだりするのだ。
掲句は山田露結『永遠集』2017年12月12日/文藝豆本ぽっぺん堂(私家版)より。
2018-02-11
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