【俳人インタビュー】
小津夜景さんへの10の質問
質問:西原天気
Q1 今週、何句作りましたか?
ゼロです。
Q2 現在お住まいの町は、どんなところですか?
人口34万人の地方都市。観光客が多く賑やかです。住民の気質についてはフランスで最も野蛮と言われているのですが、いざ来てみたら関西の足元にも及びませんでした。あと地元出身者はヴァリアーノとか、グビオッティとか、みんな苗字がイタリア系です。
Q3 きょう、朝起きてから2~3時間の行動をできるだけ詳しく(公表できる範囲で)教えてください。
わたし、眠るのが不得意で、いつも起きてから長い間ベッドの中にいるんですよ。今日も朝の7時までじっと考えごとをしていました。
Q4 触り心地が好きなものってありますか?
粉。小麦粉とか、乾いた土とか。あと触ったことはないですけど、化粧品売り場にいる、近づくと粉っぽい店員さんも大好き。
Q5 漢詩訳とエッセイから成る『カモメの日の読書』が刊行されました。いちばんのおすすめポイントを教えてください。
横組のレイアウトです! これ、最初はふつうに縦組で試作したんですよ。ところがそれだとページ数が今の倍以上になることがわかって、あ、これはダメだ、と思いました。
それから今回の本は、一般の〈外国文学〉を読むときの距離感に仕立てたかったので、少数の例外をのぞいて超訳や雅文訳を避け、ごくオーソドックスな〈外国文学〉の翻訳作法に則ったんですよね。それで、せっかくだから読者自身が白文と訳文とを見比べて楽しめるようにしたいな、とも思っていました。
で、3分くらい考えて「横組にしちゃえ❤」と。
わたし自身「どうして漢詩の本って、こんなに読めないんだろう…」とずっと悩んでいたのですが、どうやら目のメカニズム上、ふたつの言語を縦書きで行き来するのが困難だったみたいです。通常の漢詩本と並べてもらうと、白文・訳文ともに読みやすく、かつ見比べやすくなったのが即体感できますので、ぜひ手にとってみてください。
他にも横書きにした理由はあって、それはこちらに書きました。
Q6 この本には数多くの詩人が登場します。友だちになりたい人、ひとり選ぶとしたら?
うーん蘇軾かなあ。大胆で、ユーモアがあって、食べることが大好き。わたしはぜんぜん飲めないタチだから、彼が下戸だってのも助かります。あと、なんど流罪になろうとけろっとしているところもかっこいいし、見習いたいところがたくさんある。
蘇軾の詩の〈明るさ〉は一種のマニフェストで、いわゆるレジスタンスとしてのそれなんですよ。悲嘆や苦悩にそそのかされて、思わず虚無を詠い出してしまうことへの理性による抵抗と言ってもいい。おのれの精神を決して現実の中に溺れさせず、運命という主人に対する超越的視点をつねに死守している、まさしく文字どおりの反逆者です。今回の本に入れた「ライチを食う」も、明日死ぬかもしれないのに飄々と楽しそうなの。この人と友だちになりたい。
Q7 神様から「20歳に戻してあげよう。職業を次の3つのなかから選びなさい」と言われました。a 政治家/b バスガイド/c シャーマン。女性寄りの職業が多くてすみません。どれを選びますか?
バスガイド。6人乗りくらいのマイクロバスに乗って辺境地帯を旅したい。オアシスにバスを停めて一服したい。動物たちに見つめられたい。コスチュームも可愛くしたい。上品に囁くように皆様にご案内したい。「おや、ここはわたしも初めてくる場所です。遠くに見えますのは一体なんでしょう? ちょっと無線を飛ばしてみますね。ぷっ…ぷぷっ…ぷっ」みたいな感じで。
反対にやりたくない職業は巫女。シャーマニズムというのは近代政治とは比較にならないくらい、人間を全的支配するシステムでしょう? わたし、人の上に立ったり、導いたり、采配したりする行為が嫌いなんですよ。巫女というポジションに付帯する影の主役(=真の中心)性もイヤ。小さなグループから国家まで、あらゆる形態のカリスマ性に与しない姿勢は反権力であることの基本だと思っています。
Q8 どういうわけか、雄鶏を飼うことになりました。なんて名前を付けますか?
「アイアンレッグ」を縮めて「アイ君」。カンフーっぽい名前にしてみました。飛び蹴りの上手い子に育てたい。
Q9 昨日今日で聴いた音楽をひとつ教えてください。
Vladimir Horowitz の Scriabin 12 Etudes Op.8 No.12。昔、実弟から「ねえお姉ちゃん。俺、イタリア男同士の兄弟愛とか、悲しみとか、マニエリズム感とか、昇天とか、そういうの全部ホロヴィッツのピアノから学んだよ!」と言われたことがあって、それ以来ホロヴィッツを聴く耳がぐっと切なくなりました。彼、イタリア人じゃないけど(微笑)。
Q10 好きな自然現象について、教えてください。
沸騰。沸騰以外でも、あぶくの出る現象はだいたい友達です。
Q2 現在お住まいの町は、どんなところですか?
人口34万人の地方都市。観光客が多く賑やかです。住民の気質についてはフランスで最も野蛮と言われているのですが、いざ来てみたら関西の足元にも及びませんでした。あと地元出身者はヴァリアーノとか、グビオッティとか、みんな苗字がイタリア系です。
Q3 きょう、朝起きてから2~3時間の行動をできるだけ詳しく(公表できる範囲で)教えてください。
わたし、眠るのが不得意で、いつも起きてから長い間ベッドの中にいるんですよ。今日も朝の7時までじっと考えごとをしていました。
Q4 触り心地が好きなものってありますか?
粉。小麦粉とか、乾いた土とか。あと触ったことはないですけど、化粧品売り場にいる、近づくと粉っぽい店員さんも大好き。
Q5 漢詩訳とエッセイから成る『カモメの日の読書』が刊行されました。いちばんのおすすめポイントを教えてください。
横組のレイアウトです! これ、最初はふつうに縦組で試作したんですよ。ところがそれだとページ数が今の倍以上になることがわかって、あ、これはダメだ、と思いました。
それから今回の本は、一般の〈外国文学〉を読むときの距離感に仕立てたかったので、少数の例外をのぞいて超訳や雅文訳を避け、ごくオーソドックスな〈外国文学〉の翻訳作法に則ったんですよね。それで、せっかくだから読者自身が白文と訳文とを見比べて楽しめるようにしたいな、とも思っていました。
で、3分くらい考えて「横組にしちゃえ❤」と。
わたし自身「どうして漢詩の本って、こんなに読めないんだろう…」とずっと悩んでいたのですが、どうやら目のメカニズム上、ふたつの言語を縦書きで行き来するのが困難だったみたいです。通常の漢詩本と並べてもらうと、白文・訳文ともに読みやすく、かつ見比べやすくなったのが即体感できますので、ぜひ手にとってみてください。
他にも横書きにした理由はあって、それはこちらに書きました。
Q6 この本には数多くの詩人が登場します。友だちになりたい人、ひとり選ぶとしたら?
うーん蘇軾かなあ。大胆で、ユーモアがあって、食べることが大好き。わたしはぜんぜん飲めないタチだから、彼が下戸だってのも助かります。あと、なんど流罪になろうとけろっとしているところもかっこいいし、見習いたいところがたくさんある。
蘇軾の詩の〈明るさ〉は一種のマニフェストで、いわゆるレジスタンスとしてのそれなんですよ。悲嘆や苦悩にそそのかされて、思わず虚無を詠い出してしまうことへの理性による抵抗と言ってもいい。おのれの精神を決して現実の中に溺れさせず、運命という主人に対する超越的視点をつねに死守している、まさしく文字どおりの反逆者です。今回の本に入れた「ライチを食う」も、明日死ぬかもしれないのに飄々と楽しそうなの。この人と友だちになりたい。
Q7 神様から「20歳に戻してあげよう。職業を次の3つのなかから選びなさい」と言われました。a 政治家/b バスガイド/c シャーマン。女性寄りの職業が多くてすみません。どれを選びますか?
バスガイド。6人乗りくらいのマイクロバスに乗って辺境地帯を旅したい。オアシスにバスを停めて一服したい。動物たちに見つめられたい。コスチュームも可愛くしたい。上品に囁くように皆様にご案内したい。「おや、ここはわたしも初めてくる場所です。遠くに見えますのは一体なんでしょう? ちょっと無線を飛ばしてみますね。ぷっ…ぷぷっ…ぷっ」みたいな感じで。
反対にやりたくない職業は巫女。シャーマニズムというのは近代政治とは比較にならないくらい、人間を全的支配するシステムでしょう? わたし、人の上に立ったり、導いたり、采配したりする行為が嫌いなんですよ。巫女というポジションに付帯する影の主役(=真の中心)性もイヤ。小さなグループから国家まで、あらゆる形態のカリスマ性に与しない姿勢は反権力であることの基本だと思っています。
Q8 どういうわけか、雄鶏を飼うことになりました。なんて名前を付けますか?
「アイアンレッグ」を縮めて「アイ君」。カンフーっぽい名前にしてみました。飛び蹴りの上手い子に育てたい。
Q9 昨日今日で聴いた音楽をひとつ教えてください。
Vladimir Horowitz の Scriabin 12 Etudes Op.8 No.12。昔、実弟から「ねえお姉ちゃん。俺、イタリア男同士の兄弟愛とか、悲しみとか、マニエリズム感とか、昇天とか、そういうの全部ホロヴィッツのピアノから学んだよ!」と言われたことがあって、それ以来ホロヴィッツを聴く耳がぐっと切なくなりました。彼、イタリア人じゃないけど(微笑)。
Q10 好きな自然現象について、教えてください。
沸騰。沸騰以外でも、あぶくの出る現象はだいたい友達です。
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「花と夜盗」…『俳句四季』2018年4月号掲載から改稿
風花の生まれてけふの伊勢屋かな
借り証文舞ふごとくなり牡丹雪
寒月をぶらりきつねの尾をくすね
さて三越に春の便りのきのふかな
あたたかや掏摸(スリ)に抜かれし長財布
花椿焚きて『泥棒日記』を読む
龍天にのぼれと集ふ空き巣の徒
つちぐもり偸みし鳥の絵を描けば
朧夜のうろこを脱がす魚(うを)となる
泡つばきさへも真珠の春だつた
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