2018-07-15

背景を描く季語 島村元の一句 中西亮太

背景を描く季語
島村元の一句

中西亮太


最近、高浜虚子編『ホトトギス雑詠選集』を読んだ。無知だからだろうか、興味を持った「はじめまして俳人」を何人か見つけることができた。この『ホトトギス雑詠選集』、いざ読んでみるとなかなか読み終わらない。がんばって読み切った感じである。今回は、はじめまして俳人の一人を取り上げたい。

島村元。『現代俳句大事典』〔※1〕を紐解いてみると、若くしてこの世を去ったことがわかる(1893~1923年:享年31歳)。あるサイト〔※2〕によると、1900年の平均寿命は41歳、1950年は61歳なので、やはり早世だ。「虚子も元の俊敏な頭脳と才能を愛し、大いに将来を嘱望した」と同事典にもあるように、ホトトギスでも一目を置かれていた存在だったのだろう。元の句は『ホトトギス雑詠選集』に(おそらく)全部で52句収録されている。

花黄楊や蜂おとなしく食ひこぼし

ミツバチだろうか、花粉を集めている。蜂と言えば、攻撃性を含め、静的な印象はあまり感じない。けれども、この句に描かれる蜂はどこか間抜けでかわいらしい。そんな蜂がぽろぽろとこぼすパステルイエローの花粉。

さて、この句の季語は「花黄楊」である(虚子はこの句を「黄楊の花」の句として分類している。)。この季語は、蜂のかわいさを句全体に敷衍する効果を持つと考えられる。間抜けなかわいい蜂。そこに黄楊の花が持つ淡い色味を足すと、句全体が「かわいさ」に満たされていく。漫画やアニメで、「わはははは~」と走ってくる子のシーンがスローかつきらきら背景で描かれるあの手法と同じようなものだろうか。

上五に「花黄楊や」と据えることで、読者は、一輪の花黄楊だけでなく、周りにある黄楊の花を背景に間抜けな蜂を連想することができるようになる。こうして考えると、この句は背景という細部まで一コマを描きぬいていると捉えることができるのではないだろうか。蜂という対象も、背景を支える花黄楊によって一層かわいらしく描かれているのだ。

ところで、元の死後、句集が出ている(1924年に私家版として出されているようだ)。せっかく見つけ出した「はじめまして俳人」なので、いつの日かこの句集を手にしてみたい。

【参照】
〔※1〕稲畑汀子・大岡信・鷹羽狩行監修(2005)『現代俳句大事典』三省堂.
〔※2〕「平均寿命の歴史的推移(日本と主要国)」http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1615.html (2018/7/8閲覧).

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