2018-11-04

■2018角川俳句賞「落選展」第3室■ テキスト

2018角川俳句賞「落選展」第3室■テキスト
(*)一次予選通過作品 

9.  街の動態 丸田洋渡

陽だまりの象の歩数よ都草
立子忌の潜水艦の元気かな
たんぽぽや鳥来るように平らな屋根
囀を放っておいてみてもいいか
船の出て違う船くる春の湊
春暁や水深を表す海図
花の冷え御伽噺に牛が出る
鳥曇海を覆える蓋がない
初虹や魚の奥に魚のいる
送れば返る手紙のうれし春北斗
夏みかん小さな切手に小さい人
水を飲み干して葉桜の必要
筍やどこかで親が死ぬ気配
椅子捨てて机ひろびろ青岬
相槌を打つ翻訳家ところてん
マーガレット丘とスカート似合うひと
消火器をぐっと握って夏に立つ
花柘榴水の聞こえてくる二階
五月雨の博物館の象が骨
声で迫られ梧桐のある実家
蛍よりもっと光ろうとふんばる
花樗雨は大きなスプリンクラー
みずたまりに胸まで浸かる現の証拠
夕立の印刷室の無人かな
睡蓮やようやく釘のみな錆びる
心房に心室あって片かげり
発明にぱんと向日葵かがやく日
地下鉄は核に近づく道で夏
海と化すクックロビンや朝に鐘
花火師の先の花火を知る手つき
秋澄むや火の研究室の埃
脱ぐ靴の両足揃え稲光
天の川左右に空いている駅舎
鳥威し鉄骨の崩れて分かる
月や瓶に愛入れよ君が言うように
踊り子に天動説を信じる目
しとしとと覚めるひとびと葡萄園
水切りの石のかなしさ木染月
鵙逃がす大きな樹木これから死
断層に風吹きあたり金木犀
短日の鎖のたびに杭のあり
円柱の前と後ろや冬霞
首かしげて犬鷲は空考える
たっぷりと水仙を置き校長室
梟に友達はいないでほしい
枯草を蹴りながら歌を歌うな
海の減る鯨打ち上げられていて
冬かもめ空を点描する時間
「雪」声の聞こえて窓のいちめん白
街掛かる壁のうつくし青写真


10.  高気圧 クズウジュンイチ

調理器具買うて建国記念の日
人形の二月の硬き手をひねる
春泥の先へひよこを触りにゆく
春風は川に速まる榎の木
とぷとぷと混ぜてペンキが春の色
風船のひどく弱つて青畳
桶の田螺が知らず一周してゐたり
かりかりと青く目刺の背の乾く
草餅の包みへ風のわづかかな
虫食みの花やおもての公文式
蝌蚪の尾の泥を叩いてをりにけり
うらがはに道のあるいへ雪柳
蛤や緑色濃くオセロ盤
心臓は小さな臓器豆の花
きりぎしの躑躅に雨の痛むかな
住む人の変はれど庭のゆすらうめ
くしやくしやの鳥を拡げて夏隣
合宿所の硬きシーツや朴の花
らんちうの粒餌をすぱと吸うてをり
丸椅子の真ん中に穴冷し中華
日雷重みを増しておつとせい
とびうをのわつと出てくる高気圧
石垣に蟹の潜んで真昼なり
萍や風の終ひへ幾重にも
ソビエトの領土のやうに新生姜
白桃嗅げばみちみち満つる密なる毛
台風や塊肉を煮て過ごす
首吊りの縄の結び目あけびの実
秋の蚊の大きくなりて痩せにけり
庭先はバリカンの音菊日和
国と首都合はせて表にすれば秋
うすぬるく曇る茸の袋かな
どんぐりが崖の二段を落ちてゆく
檻の猪檻を揺らして廻りけり
みづぎはの胡桃みなみを向いて立つ
傾きの木へひよどりが来てをりぬ
末枯の高さに脛の長さかな
秋寒やトースト裂けば水蒸気
濡れてゐて道は短し朴落葉
竹馬のすつと収まる隙間かな
鯛焼や紙の袋にしたむきに
低音を閉ぢ込めてゐる枯葎
湯豆腐や硬き踵が板廊下
水使ふひとりと落葉掃くひとり
馴化して鶏は大きくクリスマス
タクシーの無線の寒き地名かな
クリームパン割つて渡して枇杷の花
白鳥の首打ちつけて戦へり
びぐびぐと寒鮒陸に口を開く
暗算の繰り上がる桁寒卵


11.  薪の断面 寺澤一雄

力士みな大阪にゐる涅槃西風
トラックの荷台広々桃の花
名月と同じところに春の月
天守からパパを呼ぶ声夕薄暑
銅は屋根にコインに夏の雨
木天蓼の花と教はり疑ひぬ
故郷の街の窶れや秋燕
庖丁は切れば汚るるそぞろ寒
焚口に薪の断面秋収
点滅の赤信号や首都の雪
冬麗は陸奥と常陸を分かたざる
冱つる夜のびつくり箱の狭さかな
春の来てもうすぐ花の雑木山
囀や山の形に木の生える
鉄橋の下の暗さや鳥交る
黄砂降るカメラの紐を首に掛け
遊船の進水せしは昭和末
月涼し絶滅危惧種絶滅す
ぱつくりと麦藁帽子割れにけり
栓を開け水が戻りぬ作り瀧
実柘榴や人に四本糸切り歯
セメントのサイロに名前曼珠沙華
筋肉は赤白模様小鳥来る
沸沸と蜻蛉湧き出る視界かな
枯れて立つ背高泡立草荒地
他人より分けてもらふ血古暦
もの食ふと頭に汗や鳥雲に
木は腐り立坪菫咲いてをり
玄室は荒れ花びらの吹き込める
風鈴を持てば鳴りけり竹の秋
湧きたての雲の白さよ夏休み
蟻歩く案内板の道の上
目の黒いうちは冷房最弱に
低気圧そこに停滞鱧の皮
太刀魚のぐにやぐにや動き釣り上る
やまかがし刈田のなかに迷ひけり
出来秋の背凭れ肘掛けあるベンチ
野球盤ゲームもつれる後の月
鉛筆の高さを揃へ春を待つ
風光る胡人と同じ鼻を持ち
クレソンを阿蘭芥子と言ひて摘む
花曇校歌に残る良き言葉
未草開く直前萼開く
夕立の雲は正午に生まれけり
目薬のほとんど流れ飯饐る
投げ易きつぶて少なし夏深む
犢鼻褌の読みを調べる秋の暮
銀杏散る大きな鳥が来て止まる
バイオマス発電所あり紅葉狩
川に手を浸し暖か寒土用


12.  夜と昼のパレード 赤野四羽

夏の雨珈琲淹れるひと静か 
火を担ぐ女の臍に鉄の汗 
硝子鉢うねる金魚の尾の暗さ 
背をむけて語る母と子杜若
賑やかな浴衣なんだか熱がある 
濡れた葉の額おさない夏の夕 
蝸牛わけしり顔のあぶらかな 
息を抜く女の顔や花あやめ 
蝉の子の蝉としてある心かな 
空蝉を素足に踏んで土黒き 
被毛なき肌の湿りよ床涼み
郵便箱ひらく音する夜の秋 
九歳のこえの高くに大花火 
鳳仙花やがては止まる昼の琴 
友の子の耳は大きくよく踊る 
スープ冷える唇濡らし箴言す 
ここにいます蛹を癒す月明り 
靴下をゆっくり履いて秋の椅子 
爽やかに犬も海賊服を着て 
観音像すこし俯き秋の澄む 
茸たちおいでおいでと吾を呼ぶ
十月の街をビニルで包む雨 
洋梨日和いやな男と宿にいる 
銀杏落葉己の陰も伸びいたり
鮟鱇の肝の来世にいろめくや 
悦びのようにくらくら湯に豆腐
雪激しくて愛し方を間違える 
鷹揚々腸の燃えあがる昼
白菜やああ心などわからねば
丁寧に嘘を吐きたる冬椿 
鴨の血に金の盃やや卑し
枕よ枕凍土の夜を見ていたか 
冬蜘蛛の愛に机のうえ狭し 
寒月や珈琲あおく待つ夫人 
縹渺と大気の音の雪を踏む  
元日の夜は華やぐ傘に似て 
初蝶や争わぬ身に蜜を吸い
朽ちてゆく家に朧を飼っている  
水温む椅子も寝床も浮かぶへや
ナポリタン炒める春の歌謡曲  
犬の眼に人間を呼ぶ桜かな 
紫煙染む朝寝や卵焼くおとこ 
少年に汚れた水のあたたかき 
桜蕊降る君の帽子を被るひと
花冷えの硝子戸重くありにけり
群衆に蝶の過ぎゆく速さかな
壊れ易い体に水を春の雁
頬骨やこの春紙のように貧し
雉の鳴く頃にはいくさ頭抱く 
花馬酔木ゆるり速度を落としけり




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